君の隣りに、俺が居てもいいですか?
【君の隣り】
side:阿部
毎日の朝練。
今日は天気が良いので自転車に乗り登校。
まだ学生の姿は無く、車さえも疎らな時間。
俺は今日の予定を頭に巡らせながら、一人黙々と学校に向かっていた。
「はよー」
到着すれば殆どのメンバーが揃っていて、やる気が漲ってんなとか考えながらも俺は急いで着替えを済ませた。
「はよーーーっす!!」
「阿部、くん おっ おはよっ…」
丁度部室から出て来たところで、俺は目の前に現れた二人の姿に一瞬、声を詰まらせた。
「あっ…。おはよ」
視線は下へ、下へ。
田島が握る、三橋の手へと。
「ニシシ、遅刻ギリギリー」
「たっ田島君が寄り道…するから」
「だって三橋と歩くの好きなんだもーーん」
そんな事を言いながら、二人も急いで部室へ入る。
「ガキかよ…」
戸が閉まるのを確認して、ポツリ。誰に向けた言葉なのか。
これ以上考え込まない様に、俺は早足でグラウンドへと駆けていった。
「わりぃー遅れたーー」
ケラケラと笑って二人が到着。
これで全員が揃った。
(まだ手ぇ繋いでやがる…。)
朝練の初めは瞑想から。
俺の両サイドは泉と花井。三橋は真向かえに、田島とやはり手を繋いでいた。
(三橋は嫌じゃないのか?)
今日はどうも集中力が無いらしい。俺は薄目を開けて、三橋を見ていた。
「――ッ!!?!」
不意に視線を感じてそちらへ目をやると、バチリ、田島がこちらを見ていた。
いや、睨んでいた。
驚きに俺の目は完全に開かれる。田島は真っ直ぐと、視線を逸らさず俺を見て。
そうこうしてる間に瞑想時間は終わってしまった。
次は各自の守備強化。
皆一斉に散らばって、俺も同様に防具を取りにこの場を離れた。
「あべっ、くん!」
弱々しく掛かる声。
振り返って、一睨み。
別に睨む理由なんて無いんだけど、そうしないと感情がコントロール出来なかった。
当然、ビビって硬直する三橋。慌ててフォローを入れれば、元に戻ってヘニャリと力なく笑う。
「田島と練習しないの?」
ちょっと嫌味に。でも次に返る言葉を知っているから言えた事。
「俺っ…阿部くん以外に 投げれな い、から」
素直に嬉しいと思う。俺に対する信頼が、その言葉を言わせているから。
この瞬間だけ、三橋は完全に俺だけのモノ。
投球練習で朝練は終わってしまう。
本当に短い時間、それでも俺にとっては長い時間。
三橋と一緒に居られる、お前の隣りに居られる大切な時間。
授業が始まれば、当然別々のクラス。会える機会なんて無いに等しい。
休み時間に会いに行けば良いだろ、なんて思われるかもしれないけど、そんな事したいとも思わない。
9組には―――田島が居る。
あの眼をみれば、誰だって気付くに決まってる。
アイツは三橋の事が好きなんだ。
俺だって三橋の事を想っている。ピッチャーとかキャッチャーとか関係の無い、人としての感情で。
積極的になれない理由は本当に単純で、三橋が俺に怯えているから。それだけの事。
声を掛けただけでビクリと体を震わされ、触れれば泣きそうに俺を見上げてくる。
アイツにたいしては、どの全てをも受け入れてるのに。
そんな醜い嫉妬で俺達の関係を壊したくないから、だから会いに行かない。
それでも、こうやって構えていられるのは、
「阿部くんっ!」
「遅い、早く練習すっぞ」
「うんっ!!」
授業が終わって、部活が始まって。お前が俺の元へと来る事を信じているから。
君の隣りは誰の場所?
早く、俺の気持ちに気付いて欲しい。
END
お暇があれば、田島サイドも読んでみて下さい〜♪