喜怒哀楽。コロコロ変わる君の表情。
今で十分幸せや。これ以上は望みません。
【純血BABY】
「之にて、定例集会をお開きにする」
毎度お馴染みの集会。やっとの事で終わりを告げられ、だるそうに各隊長等が立ち上がる。
「おい、松本…お前寝てただろ」
「やだ、隊長ったら……よく分かりましたね」
「……はぁ」
ここで怒鳴るのも十番隊の恥を曝すもんだと思い、拳を震わせながらも踏み止まる。と、そこへ霊圧だけで日番谷の神経を逆撫でるアイツがハートを振り撒きながら近づいてきた。
「冬〜!」
「……はぁぁぁ」
松本以上の深い溜息が口から漏れる。
――ガバッッ!
「ふっゆ〜捕っまえた〜!!」
後ろから鷲掴みされ、体を見事にホールドされてしまった。
「市丸、離れろ」
「嫌や」
「離れろ…」
「イ、ヤ」
「……」
日番谷の米神に青筋が奔る。ヤバイ…そう思った松本は即座に側を離れた。
怒り爆発まで後僅か……秒読み開始、5.4.3.2.……
「……もぅ、一緒に寝てやらないからな」
「―――?!」
想像を遥かに超える可愛い日番谷に市丸は速攻ノックダウン。硬直して全く動かない。その姿を見た日番谷は黒い笑み…。
思惑通り。
どうせ怒鳴っても蹴っ飛ばしても効き目のないコイツには逆に甘えればいいんだ。で、このザマ。チョロイ男だ。
「ふ…ふふふふ……」
俺の頭上から振ってきた不敵な笑い声。
「おい…」
「冬…僕を甘く見ない方がええで?」
「は?」
――パッ!
突如市丸は抱き締めていた腕を離した。
「…始めからそうすりゃいいんだよ」
「約束や。ほな、今から二人で寝よか」
「は?何でそうなるんだよっっ」
「離せば一緒に寝てくれるんやろ?」
「え、いや…そうじゃなくて…」
「嘘やったん?!酷いっっ!冬は僕を弄んだんやねっっ」
余所から見れば明らかに演技だと丸判りの猿芝居。だが、真面目な日番谷はそれを見抜くことが出来ず焦っている。
かなり挙動不審になってきた頃合を見て、行動を開始した。
「ほな、レッツ☆ゴーや!!」
「ちょっ、市丸っっ」
小さな日番谷を軽々と担ぎ上げ、市丸は瞬歩を使い集会場を離れて行った。
この場にいた全員、何時もの事だと微動だにしない。しかし、約一名あの二人のイチャラブを目を凝らして見ていた人物が…
「確か…あの二人は恋仲であったな…」
未だ椅子に腰掛け寛いでいた総隊長だ。
「これ雀部や、居るのじゃろ?ちぃと呼んで来て貰いたい者が居るんじゃが…」
なにを思い立ったのか、総隊長は雀部が去った後、満足そうに微笑み自室へと戻って行った。
「やだっっ、馬鹿!!降ろせっっ」
「はいはい。今降ろしたるからなぁ」
廊下を歩いてる最中から市丸に担がれた日番谷はジタバタと暴れ騒がしい。そんな事を気にも留めず、市丸が向った先は……言うまでもなく市丸本人の自室。
実は、先程まで一緒にこの部屋で眠っていたのだ。勿論、昨晩の事情の為……。
「ほら、着いたで」
「えっ、うわぁっっ?!」
ドサッ――
部屋に響く、荷物を放り投げた様な音。
「痛ってぇ〜…」
腰を摩る手が動かし難い…何か、体が重い様な……。
「またそんなに皺寄せてぇ〜…折角の顔が台無しや」
「いっ、市丸?!何上に乗ってんだよっ!!」
怒鳴る最中気付いた事。日番谷は片方の手首を掴まれ動けない。それを愉しむかの如く、市丸は満面の笑顔で覆い被り離れない。
徐々に近づく狐の顔…
「お、おい…本気か?!」
「何が?」
「昨日やっただろッ」
「今日はしてへんよ?」
「へ……っ!?やだっ止めっっ」
「いただきます」
「ぎゃ〜〜っっ」
暫くの間、市丸の自室からは日番谷の嬌声が響き渡っていた。
パタパタっ――
誰かが廊下を走る音…息遣いも荒く、かなり疲れている模様。
「市丸隊長は何処でサボってんだか…」
呆れた表情で辺りを見渡しているのは三番隊副官の吉良だった。市丸の失踪は何時もの事なのだが、あの男も一応隊長。副官には出来ない重要書類もある訳で。
「全く、何で集会の後真っ直ぐ帰る事が出来ないんだ!!迷子の子供じゃ有るまいしっっ」
つい愚痴が零れてしまう。それもこれも全てはあの狐のせい。こっちだってやりたい事が山積みだってのに…。
そうこうしている間に吉良は集会場の前に立っていた。一応、居残りの可能性を考えて…。
「…やっぱりいないか」
フゥと小さな溜息を落とし、来た道を返そうと足を動かす……と、中から声がした。
至極小さな声で、何処かで聞いた事のある人物の…。
「何だろ…」
コソコソ話すには訳がある筈。正直、少し興味があった。だって、コソコソと話す会話の内容に市丸隊長の名前が出ていたから…。
吉良が覗いているとはつゆ知らず、内緒話に花を咲かせる男二人。
一人はどっかりと椅子に腰掛け長い髭を撫で下ろす総隊長。もう一人は、吉良自身何度かしか見たことの無い、額に角を付けた白衣の男…技術開発局の阿近だ。
一体何を話し込んでいるのか…
「うむ…そうじゃ。市丸と日番谷の――を――して―――出来る様開発して貰いたい」
「はぁ…でも本人達が何と言うか…」
「構わんっ!それに、あの二人は恋仲じゃ。嫌とは言うまうて」
「……総隊長が其処まで言われるなら」
お互い、腕を組み真剣な面持ち。特に総隊長の方が乗り気ならしく、時折笑顔が垣間見れる。
「作業は隠密に頼むぞ。なんせ最近は面倒な輩が増えてきておるからのぅ」
「まぁ…それについては俺の耳にも届いてますけど」
「とにかく、頼んだぞ。尸魂界の未来に関る事じゃて」
「分かりました。時間が掛かるとは思いますが、必ず成功させてみせます」
何やら話しの結論が出たらしい二人は、顔を見合わせ不気味に笑うとそれぞれ別々の方へ歩き出し集会場は無人となった。
「……た…大変だ…」
やっと出た一言。段々と血の気が引いてゆく…。が、ここで倒れる訳には行かない!!
だって…、だって……、これは尸魂界を揺るがす一大事だから!!!!!
「と…とにかく落ち着いて…」
早まる鼓動を押さえ付け、まず自分が取るべき行動を考える。それは…
「そうだ!乱菊さんに報告だ!!」
そう言うが早く、吉良はキョロキョロと辺りを見渡し、瞬歩で松本の元へと向った。
清々しい午前の木漏れ日が窓から差し込む。外は道行く死神達で騒がしい。
しかし、この部屋は外とは正反対に凄まじい静寂が流れていた。
それを破ったのは眉間に皺を寄せた小さな少年で。
「おい…」
「ん?」
「言うことあんだろ?」
「……今日もええ締りで」
――ドカッッ!
「誰がそんな事言えっつったぁぁッッ!!!」
「なんや?まだ元気やん。もう一発やっとく?」
「ふざけんなーーー!!」
事をし終えた二人は仲良く布団に並び寝転がっていた。傍から見れば、イチャイチャしている様にしか見えないけど。が、この小さな少年は本気で怒っているらしく、ひたすら暴れる。それを笑顔で見つめる狐一匹…。
「可愛ぇなぁ〜」
「わっ馬鹿っっ!!抱きつくなっ」
「あかん…止まらんわ」
――ガババッッ!
「ひっ……いや〜〜っっっ?!」
本日二度目。部屋からは日番谷の甘い喘ぎ声が再度響き渡った。
――バタバタッッ
誰かが廊下を走る音…息遣いも荒く、かなり疲れている感じが滲み出ている。
「乱菊さんは何処でサボってんだか…」
呆れた表情で辺りを見渡しているのは、またもや吉良だった。市丸の失踪は何時もの事なのだが、乱菊さんも決して負けていない。とにかく、あの二人の行動パターンは至極似ている。だてに幼馴染を公表してる訳ではない。
ここは、日頃の勘を頼るしかない…
「多分…あそこだな」
日番谷隊長が近づけない上に酒も呑めて、口煩くないあの人が居る場所。
――ドタドタドタッ……スパーーンッッッ!!!
「乱菊さんっっ!!」
自分の勘を信じ、真っ直ぐここへ来た。居る事を確信して、勢い良く襖を開け放つ。
「やだっっ、吉良?!何よビックリしたじゃない…」
豊満な胸に手を当て相当驚いたのだろう松本が、大きな眼をくりくりさせ此方へ振り返る。
「驚いている場合じゃ無いんです!!一大事ですっ!!」
荒げた息を必死に抑え吉良がずかずかと中へと入ってくる。それを予想外と思ったのか、この部屋の主と松本が目を点にして呆けていた。
「ちょ、如何したのよ?!」
「おい…吉良っ?!」
二人同時の制止。が、吉良は凄まじい勢いで突進して、止まろうとしない。
「僕の話を聞いた方が良いですよ…。これからの為にも…」
漸く足の止まった吉良は、意味深な言葉を吐き捨てる。二人は顔を見合わせ首を傾げた。
「取り合えず座って」
「失礼します」
促されるまま畳へと胡坐をかいて。
「私がここに居るってよく分かったわね」
「そんなの簡単です」
「そう?」
「今までの経験を利用した推理です」
乱菊さんが居るのを知っておきながら日番谷隊長がここに来れない理由。
それは、この部屋の主、檜佐木修兵が日番谷隊長の元彼だから。部屋に入った所を市丸隊長に見られでもしたら一環の終わり。それを危惧して彼は一切近寄らない。
そして、檜佐木さんが松本さんを素直に匿る理由。それは、少しでも日番谷隊長と会える機会を増やすため。会えないとしても、日番谷隊長の最新情報を手に入れるため。
ここまで完璧な推理は僕にしか出来ないであろう。日頃の訓練のお蔭だ。
「そんな事より、何だよ一大事って」
「あ、忘れてた。僕ってば自己満の世界に入ってました」
「……はあ?」
檜佐木さんは我慢が出来ないのか、貧乏揺すりをして睨んでくる。
「では、お話します。僕が先程聞いた驚愕の会話を……」
ゴクリ…生唾を飲む音が部屋に響き、掻き消された。
護廷十三隊とは、靜霊廷の守護を主任務とする戦闘部隊。各隊を率いる隊長は隔絶した能力の持つ死神がその任に付く。秀でた能力を持つ者が後世に現れ、隊長としての任を任せなければならない。
戦闘中に死する事もある。その時に即座に隊長の席に着く者が必要。隊長と成るべくは他との圧倒的な力の差が無ければならない。
しかし、卍解に値する程の能力者は極僅か。隊長と名の付く限り、半端者は不要。
では、如何すればそのような者が現れるか…。
そんな裏事情を知ってか知らぬか、先程の事を語る吉良は饒舌だ。
「総隊長が阿近さんに、市丸隊長と日番谷隊長の精子を受精させて子供を作って欲しい。と言ってたんです」
話し終えた吉良はフゥと溜息を一つ吐き、漸く落ち着きを持ちだした。
一方、話を聞いた二人はフルフルと体が震えだしていた。
「冗談じゃないわよ…」
「総隊長…見損なったぜ…」
「僕も同じ気持ちです」
三人は目で互いの感情確認し、其々が立ち上がる。
――ダンッッ!
「召集をかけるわよっっ!!」
松本の怒涛の一声で、檜佐木と吉良は瞬歩を使い部屋を飛び出して行った。
「日番谷隊長との子供を……ギンには作らせない…」
一人残った松本の口から放たれた一言。今から始まる騒動を思い描き、無意識に口角がつり上る。
暫くして、不敵な笑い声が部屋に響き渡った。
「遅れてすまないっっ!!」
長髪を振り乱し、息も荒げに一人の男がある一室に駆け込んできた。
「…これで皆が揃ったわね」
部屋の中央、窓の前に佇む金髪の女性の姿。腕を組み、真剣な面持ち。
その女性を中心に、ズラリと並ぶ男や女。
この部屋に充満するピリピリとした霊圧は彼等が出しているらしい。誰一人談笑をする者も居らず、重い空気が漂っている。
ここに集まったメンバーを隊順に紹介すると、吉良、卯ノ花、藍染、雛森、朽木、阿散井、檜佐木、松本、浮竹の9名。
先程松本が招集を掛けたのは、日頃から日番谷を狙う上層部の人達だった。何時もは死闘を繰り広げる程のライバル関係なのだが、今は一時休戦。
正直、そんな事を言っている場合ではないのだ。
それもこれも、先程聞いた総隊長のあの一言が原因な訳で。
「ほんと、ありえねぇーよ…」
ポツリと文句を垂らす者。
「何故そんな勝手な事っっ!!」
露骨に怒りを表す者。
「……」
発する言葉すらない者。
其々が思い思いの感情をぶちまけ、気付けば部屋に収まりきらない霊圧が近辺の建物を軋ませていた。
「全員落ち着いてっっ」
ざわつきが増す一方の状況に渇を入れたのは今は一番妬まれているであろう人物の副官、吉良であった。
「お前は腹立たないのか?」
唯でさえ目付きの悪い檜佐木が、更に睨みを利かせて凄んで来る。
「立ちますよ!でもこれ以上霊圧を放出したら総隊長にばれて僕達は手出し出来なくなってしまいますよ」
その瞬間、しん…と静まり返る室内。霊圧も嘘の様に消え失せた。
「僕とした事が…迂闊だった」
藍染は米神を指で押さえながら項垂れる。
「その日が来るまで…待ちましょう」
卯ノ花の癒しともとれる声に、一同は頷き解散した。