あの騒動から数日。
今までと何等変わらない回りに気付くわけも無く。
「冬〜っっ!」
「わっ?!市丸っっ」
昼の鐘が鳴ると共に十番隊執務室に乗り込んできた狐一匹。
「お昼食べ行こ〜」
「分かったから離れろっっ」
ドタバタと騒がしい毎日。唯一つ、違う事といえば。
「ギン…そうしてられるのは今だけよ」
そう、あのメンバーが殺意の目を向けている…。唯それだけ。
ラブラブ全開で食堂に向かう二人に聞こえない様に、そっと静かに呟く。
「はぁ〜結構人居るなぁ〜…」
食堂に着けば、凄まじいほどの人だかり。其れもそのはず、ここは尸魂界に住む死神が利用する場所。昼飯時の今、人が居ない方がおかしいくらいだ。
「おい…。ここは止めてあっち行こうぜ?」
余りの人数に、人込みの嫌いな日番谷は来た道を引き返そうとする。
「嫌やっっ!!あっちは落ち着いて食事できへんっっ」
出口に向かい歩き出した日番谷の腕を掴み首を横に振る市丸…。何だかよく分からないが必死な顔でしがみ付く。
「何でだよ…こっちより断然人少ないじゃん」
「人数じゃあらへんっっ!!冬は判ってへんねや!僕の気持ちなんてっ!!」
「お前の気持ちなんて知るかっっ!俺は腹減ったんだからあっちで食うぞ」
スタスタと狐を置いて出て行く少年。置き去りは寂しいので渋々と後に付いて出て行く。
「俺何食おうかな…」
「僕!」
――ボカッッ!
「〜〜……痛いやんっっ!!」
「テメーが悪いんだろ」
もう一つの食堂に着いたらしい二人は、メニューの木板を見ながら考えていた。
「あ、日番谷隊長!今から飯っすか?」
「阿散井…」
「……やっぱりや」
ハァ〜…。市丸は大きな溜息を吐き顔を顰める。如何して市丸がここに来るのを嫌がったのかというと…
「やあ、日番谷君。僕と一緒に食べないかい?」
「あら?隊長…今日はこっちで食べるんですか?」
「冬獅郎っっ!!久し振りだな!!」
「日番谷隊長、久し振りに二人っきりで食事しません?」
そう、ここは…隊長と副隊長しか使えない上級食堂であった。死神の中でアイドル的存在の日番谷を放って食事をする者など居ない。下っ端なら市丸が側に居るだけで近付きもしないのに、ここはそうもいかない。
「おい、市丸?どうしたんだよ」
「冬…早よ食べて部屋戻ろな…」
「あ?ああ…」
力なく項垂れる市丸を余所に、日番谷は満面の笑顔で食事を始めた。
――ドタドタドタッッ
「失礼します。総隊長は居られますかっ?」
一番隊執務室に飛び込んで来た男が一人。
「おお!阿近か!!待っておったぞ」
椅子から身を乗り出しどれだけ振りかの再会に喜びを露にする。
其れもその筈。あの日からかれこれ半年は過ぎていたのだから。
「で、如何なのじゃ??」
「はい、完成しました」
「そうかっっ!!では今から二人を呼んで、作戦開始じゃ!!!!!」
――ヒラヒラヒラ……
二匹の地獄蝶がある一箇所を目指し飛び立っていった。
「冬…気持ちええ?」
「あっ、やだっ…そこダメっっ」
未だ何も知らない話題の二人は事情の真っ最中。丁度、執務を終えたか終えてないかの時刻。外はすっかり日も沈み、蝋燭がゆらゆらと二人の影を揺らす。
「冬のええ声、もっと聞かして」
「ふぅっ…あっ…あぁっっ」
グチュグチュと水音の響く室内。
頬を朱に染め、瞳からは雫を零す少年。昼間とは正反対の甘い嬌声。
正上位で少年の中を荒らしていた市丸は、小さな体をぐいっと持ち上げ体位を座位へと変える。
「ひゃっ?!…やあっっ」
今まで以上に深く挿入したそれをその小さな蕾は懸命に呑み込み、快楽を得ようと締め付ける。
「冬の中、もっと欲しいってヒクヒクしとる」
「市丸っ…あぁっ、あっ」
そろそろ限界なのか、小刻みに体が震えだす。それを見逃さなかった市丸は、動かす腰を更に激しく、少年の弱い箇所を責め上げる。もう直ぐ限界、という所で動きを突如緩め、深く唇を重ねた。
「ふぇ…市丸っ?」
「冬、僕の事好き?」
「好き…」
「ずっと一緒に居ってくれる?」
「うん…」
「嘘やないなら、冬からキスして」
迷う事無く重ねられた唇。舌を絡め合い、甘い甘い口付け。
「…よぅ出来ました」
そう言うと、市丸は律動を開始し、己の欲と共に少年を絶頂へと迎えてやった。
「さ、冬。中綺麗にするから大人しくしててな」
「う〜〜…」
事情の後の何時もの行為。これをしなくては日番谷は腹痛を起し、苦しむ事になる。それを分かっているので、拒絶する事も無く受け入れる。まぁ、気を失っていれば耐える必要も無いのだが…。
「ふぁっ……んっ…」
「冬…誘ってはるん?」
「ちがっ…」
「ほれ…」
グチュリ…わざと音を立て中を掻き出す。
「やぁっ…あ」
ビクリと肩を揺らせ、敏感に反応する体。ニヤリ。市丸は口角を吊り上げる。
「しゃーないなぁ……。あ…」
ガバリと覆い被さってきた市丸は、窓を見つめ動きが止まった。
――ヒラヒラヒラ……
「地獄蝶…?」
「二匹居るな…」
ガラリ、扉を開けてやる。ゆっくりと舞い降りた地獄蝶は、其々の指へと止まり言の葉を伝える。
「……??とにかく向おう」
「は〜、ええとこやったんに…」
二人は身嗜みを整え、部屋から出て行った。それを見つめる四つの瞳。
「動き出したようね…」
「呼び出し、掛けて来ますね」
お互いの副官、松本と吉良の二人。隊長の動きに関してはこの二人が適任。常に動きを観察されていたのだ。そうとも知らず、仲良く寄り添い一番隊舎を目指す二人。
今まで張り詰めていた空気が僅かに動きを見せた。
「三番隊市丸と十番隊日番谷です。総隊長は居られますか?」
ギィ…木の軋む音を立て、一番隊の大きな扉は開け放たれた。そして、部屋の中央を見れば椅子に腰掛た総隊長の姿。と、その横に二人にとっては理解できない阿近の佇む姿。
意味が分からずただ突っ立っている二人に手招きをし、中に入るよう促す。
「夜分遅くにすまんの」
「はぁ……??」
何故かご機嫌な総隊長を不審に思いながらも促されるまま前へと足を進める。
「何の用です?僕達は忙しいんやけど?」
いいところを途中で切り上げさせられた市丸は少々ご立腹の様子。
「まぁそう怒るな。今から儂が話す事はお前等にとって喜ばしい事だと思うんじゃが…」
「喜ばしい事?」
総隊長が放った一言に二人は喰らい付く。
「そうじゃ。驚くでないぞ…」
ゴクリ…生唾を飲み込む音が静まり返った室内に響き渡る。ふぅ、総隊長が小さく息を吐いた。
「男同士とは何と不便なモノよ…。じゃが技術開発局の最新技術で儂の悩みは解消された。それは!市丸と日番谷の精子を組み合わせ、新たな命を芽生えさせる事が可能となったからである!!」
鼻息も荒くありえない一言を言い放ったジジィに流石の市丸も開いた口が塞がらない。
「総隊長…ボケるの早すぎだろ…」
額に手を当て日番谷が呆れた声を出す。
「日番谷隊長、これは事実です」
阿近が横から言葉を返す。
「事実もクソもあるかっっ!馬鹿らしい…俺は帰るぞ」
「ちょっと待った!!阿近はん…それほんま?」
「はい。先程も話した通り、実験は成功したんです」
なにやら話しに乗ってきた市丸は阿近に詰め寄り話を聞き始めた。一方、日番谷は市丸に腕を掴まれて帰る事が出来ない。総隊長も加わり、話しに熱が篭り始めた。
子供とは義骸の事ではないのかとか、二人の細胞で作った人造人間ではないのか。とか…
「最後に、どうやって子作りするん??」
「それは簡単です。この薬を日番谷隊長に飲んで貰い、何時も通りやっちゃって下さい」
「なっ?!やるって…おいっっ!!」
「中出しでええんやろ?」
「市丸っっ?!」
「勿論です!」
日番谷を余所に話しの纏まったらしい一同は、ニンマリと頬を吊り上げ日番谷を見つめる。
「冬、子作り頑張ろな」
「尸魂界の為じゃ、頼んだぞ」
逃げれない…。瞬時にその事を悟った少年は力なく床へ座り込んでしまった。
と、不意に何かを感じ取ったのか、総隊長と市丸はここの入り口に目をやり気を集中させる。
――ギギ…ギィィーー…
暫くして一番隊執務室の扉は誰かによって開け放たれた。
「総隊長!!見損ないましたっっ」
聞こえた第一声。それは俺の良く知る女性の声で。
「松本…?」
後ろの方から続々と現れる黒い集団。全員良く知る顔だ。
「なんや?」
「ほう…」
松本と共に入ってきた人物。それは例の集団であった。ピリピリとした霊圧が部屋を充満し始めたのは言うまでもない…。
「お前等…なんでここに」
放心状態の日番谷はこの状況の理解に苦しんでいる様子。それとは逆に、即座に状況を読み取った市丸と総隊長はうろたえる様子も無くただ見つめる。
「日番谷隊長の相手は市丸隊長では役不足だと思います」
「なんやてっっ?!乱菊!!僕と冬は恋人同士や。子供作って何が悪いん」
「私と作ればそんな薬使わなくても出来るのに」
「やだっ!?乱菊さん、シロちゃんは私のですっっ。若い方が元気な子生まれますよ」
「若いって、あんた!!シメるわよっっ!!!」
暴言と罵声の荒らし。女ってマジ怖ぇ〜…
「冬獅郎は誰にも渡さんぞっっ!!」
「父親気取りは止めて諦めたらどうかな…」
「君みたいな似非俳優に言われる筋合いは無いね」
一歩遅れて男の方もヒートアップしてきた。
「俺は元々冬獅郎の彼氏だ。選ばれる権利はあるだろ」
「所詮元彼。今は関係ないっすよ。寧ろ俺が相手に相応しい…」
「野良犬は下がれ…。貴族に収まれば衣食住何不自由なく暮らしていけるぞ」
「隊長?!今、野良犬言いましたか?!」
「貴様、野良犬ではなかったら何なのだ??」
「酷ぇ……」
何か訳の判らない展開になってきた。
「仕事をしない市丸隊長より、僕の方が断然将来性がありますっっ」
「私の側に居れば、子供の体調は心配要りませんよ」
「貴族になれば全ての心配は不要だ」
「ダメだ!ダメだダメだーー!!冬獅郎には指一本触れさせんっっ」
「それは無理だね。僕は日番谷君と指以上の関係なのだから」
どさくさに紛れての爆弾発言。
「藍染はんっっ?!それ本当なん?!」
「ああ、勿論。ね、日番谷君…」
「ひっっ……」
「冬の浮気モノーー!裏切りやーー!」
「おや、ギン知らなかったのかい?」
既に収拾の利かなくなったこの現場。段々と日番谷の表情が曇ってくる……。
それに気付く者は居らず、事態は斬魄刀の開放まで悪化していた。
「……市丸…」
ポツリ、そう一言。
「冬…?」
殆ど声に出してはいない筈の呟きに、俺の求めた奴は気付いてくれて。
「市丸は子供欲しいのか?」
「え…ちょ、冬?!」
突如、頬を伝う雫が見えた。慌てて覗けば翡翠に溜めた大粒の涙が収まりきらずに溢れ出していた。
「俺はっ…お前と二人で…ずっと居たい…」
止まらない涙と嗚咽。しかし日番谷は市丸に必死に訴えかける。
周りは相変らずの戦場。
「…そやね」
ポンポンと泣く子供を宥め、市丸はある一点に向かい人山を潜り抜け歩き出した。
「阿近はん…その薬、貰える?」
阿近より受け取った薬瓶。
「こんなもんで…冬が泣く事あらへん…」
市丸は徐に掴むと…――パリーーンッッッ…
それを勢い良く地面に叩きつけてしまった。無残に散らばる破片と液体。
その音に驚いたのは阿近だけでは無く、この場にいた全員の動きがピタリと止まる。
「なっ?!市丸隊長っ!!?!」
真っ先に声を出したのは、この液体を半年もかけて開発した阿近であった。
「堪忍なぁ…こんなもん僕達には必要ないねん」
ゆっくりと市丸は日番谷の元へ歩み寄る。立ち上がれない少年を優しく抱え上げ、頬にキスを落とす。
「市丸…儂の意見に逆らう気か?」
納得のいかない総隊長は一段落低い声で凄んで来る。
「強制はよくないで??第一、そんな凄いの作る能力あるなら別に活かしたらどうなん??」
「う…」
「改造魂魄を作り直すとか出来るやろ??」
「うう…」
「とにかく!僕達二人が嫌言うたんやからこの話は無しって事や」
「……」
もはや誰も口出しする者は居ない。
「それでは皆さん、さいなら」
日番谷を抱えた市丸はヒラヒラと手を振り、軽快に一番隊舎を出て行ってしまった。
残された者は呆気に取られ、身動き一つとれない。
「ふぉふぉっ、市丸の言う通りじゃな…」
こりゃ参ったと言わんばかりの総隊長はそのまま席を立ち、自室へと消えていってしまった。
「ちょっと吉良…如何言う事よ」
「え?!僕ですか?」
「当たり前でしょ!!言い出したのはあんたなんだからっっ」
「そ、そんな〜」
吉良の悲痛な叫びは誰に届くことも無く、ただ夜の闇へと吸い込まれていった。
喜怒哀楽。
コロコロ変わる君の表情。
今で十分幸せや。
これ以上は望みません。
「冬、大好きや。これからもずっと一緒に居よな」
「市丸こそ…俺から離れるなよ」
END
阿呆ネタですが、最後は市丸さんに大人になってもらいました。