昨晩から続く大雨に暴風も手伝って、グラウンドは荒れ放題。
当然、部活なんて出来る訳が無い。体育館は他の部活が占領して、使用不可。
「ちぇ、つまんねーな」
「ほんと。雨止まねーかな」
【特別な笑顔】
野球したーーーーい!!!
体力を持て余し気味の田島と泉はブンブンと腕のみの素振り練習でストレスを発散する。
「三橋ー、眠いのかー?」
そう問いかけるのは、三橋の一番の理解者である田島。とうの三橋は窓の外を呆然と眺めて、何かすっきりしない表情。泉も気になったのか、三橋の机に駆け寄って、二人同時に呆ける少年を覗き込んだ。
「元気ねーぞ?」
「腹減ってんの?」
「ち、ちが う 」
やっと口を開いた。だけど、それ以上は何も言おうとはせず、田島と泉は頭に「?」をちらつかせながら、互いを見合わせた。
「悩み事?」
「考え事?」
「恋?」
「勉強?」
思いつく限りで問いかけてみるも、三橋の返答はどれも違うらしく。むしろ、なんで元気が出ないのか自分でも判らないらしい。
「三橋、手!」
パチン!触れた手に伝わる体温。それはとても冷たくて、カチカチで、本当に元気が無いんだなと田島は眉を下げる。
「う〜ん…」
珍しい、田島の唸る声。と、それを打ち消す様に開かれた、引き戸。
ガララと軽やかに音を出し、一人の男が顔を出した。
「三橋ー」
ガタタタッ!凄まじい勢いで椅子が動く音。突然で驚いた田島と泉は慌てて視線を三橋に戻す。
「あっ、阿部くん…お、おはよ!」
「おはよ。ちゃんと寝たか?」
「うん!寝た よ!!」
他に目もくれないで阿部の元へと駆け寄る三橋。頬はピンクに染まり、瞳はキラキラ、緩んだ表情全てが嬉しそうに輝いていて。
「なんだ。そー言うことか」
「だな」
遠くで見物の二人。
なんとなく、元気が無かった理由が判って、取り敢えず一安心。
「俺たち邪魔だし5組行ってよーぜ」
「おー♪花井に宿題教えてもーらおっと」
田島と泉は二人を邪魔しないように、そっと教室を離れた。
ホッカホカに温まった三橋の手。
今日も一日笑ってろよ!阿部に言われて元気に返事。
互いに手を合わせて、指を絡めて。
見詰め合った表情は、誰も見せない、
大好きな人への、特別な笑顔。
END