「で…で、出来たぁぁっっ!!!!!」
ある一室に響き渡る大きな声。その声の主は目の下に隈を作りながらも満面の笑み。
「おめでとうございます!!日番谷隊長っっ!!」
「…上手に出来てるか?」
「愛情たっぷり!問題ないっす!!」
グッと親指を突きつけ、此方も目に隈を作りながらの笑顔。
「おい…歪んでねぇ??」
「うっ…」
「黒崎の言葉は聞かなくていいよ。初めてでこれだけ出来れば凄いよ」
「…本当か?」
「勿論!」
その言葉を聞いてホッとしたのか、小さな少年は大きな欠伸を一つ。
「一睡もしないで頑張ったからな。ちょっと寝ようぜ」
「そうだね」
「さ、日番谷隊長も寝ましょ」
「でも…帰んないと」
「隅作ったまま帰ったら市丸隊長ビックリするっすよ?」
「……そうだな。じゃちょっとだけ…」
四人が眠りに付く頃、昇り始めた朝日。それは東を暖め、南へ向いた。
そう、時刻は正午。
四人が寝初めて、六時間が経過した。
「寝坊だーーーっっっ」
眠りについている三人の耳を劈くような高い声。
かなりのパニックなのか部屋中をバタバタ走り回っている。
「ちょ、隊長落ち着いて!!」
「馬鹿野郎っ!!もう昼だぞ?!これ以上遅いと市丸に気付かれるっっ」
あわあわ…挙動不審に辺りを見渡し、ガシリと己の斬魄刀を握り締める。
「悪い阿散井、俺先に行くな」
「えっ、マジッすか隊長っっ?!」
そう言うが早く、少年は靜霊廷へと戻るべく門を開き入っていった。
「ん〜…?何だよ騒がしい」
「あれ…日番谷君は?」
「帰ったよ……これを忘れてな……」
阿散井の手には一日かけて漸く作ったそれが握り締められていた。
靜霊廷も現世と並び時刻は正午。
昼の時間な事もあり、賑やかしい。
「もう!隊長ったら何時帰ってくるのよ」
「恋次……減給だな」
お互い隊は違うものの、考えることは同じ。現世へと行った二人の、未だ姿を見せない今に憤りを感じている。
しかし、それ以上に怒りに我を忘れた男が一人…。
「なぁ、イヅル。日番谷はんは今日の朝帰る言ってはったんやろ?」
「はあ…」
「おかしいなぁ…もう、昼やで?」
「ええ…」
「子供は直ぐ嘘付くから敵わんわ」
「……」
朝から落ち着きの無いここの隊主、市丸ギン。
氷輪丸なんて目じゃないほど冷え切った霊圧を放出させ、机に座る。
昨日、今週いっぱいの書類を全て終らせてしまったので、やる事が無い。一緒に居る事が無いのに慣れたせいもあり、話題も無い。
さっきから出る言葉といえば、
「腹立つわ〜…二人共帰って来んねんで?別々の用の筈なんに、どっちも帰って来いひん」
「そうですね…」
「はぁ〜、日番谷はん……冬……冬ぅ…」
切れてみたり、泣いてみたり。ぶっちゃけウザイ。やれるもんなら執務室から放り投げてやりたい。其れ位ウザイ。
――ガタタッッッ
「――…」
勢い良く椅子が引かれ音。それに驚き、音のした方へ目をやる。
「あれ…隊長?」
そこには雑に引かれた椅子と、既に冷めたお茶だけが残っていた。居た筈の人は影すらも無い。
「……はぁ」
日番谷隊長のこれからが心配な反面、これで落ち着いてここに居れる事に溜息を吐いた。
「ヤベェッ…もう昼飯の時間じゃん」
寝癖をつけながらも、息を切らして靜霊廷に着いた日番谷。悪いことはしていないのだが、一応ばれない様に雑木林からこんにちわ。急がないと。松本も心配しているだろうから。
「おかえり」
木々を潜り抜けるように走っていたら声が耳に届いた。
「市丸っ?!」
木に寄りかかり、笑顔で此方に手を振る。
「寝癖なんてつけて…それ、討伐でついたん?」
「え…うわっ…本当だ」
「なんや気付かんかったん?」
「……」
視線が冷たい…。
「あ、あのな――あっっっ!?」
突如、日番谷の動きが止まった。
かと思えば、手をばたばたと動かし挙動不審。流石の市丸も不審に眉を顰める。
「あのな、で何や?どないしたん冬…」
タラタラタラ―…滝のような汗が流れ落ちる。
「あ、報告!総隊長に報告行かないと!じゃ、後でな市丸っっ!」
ピュゥゥ〜〜…。
効果音が聞こえてきそうな速さで、日番谷は市丸の前から姿を消した。
「報告ね…」
少年が向っていった方向をただ見つめ、そうポツリ。
「やっぱりや…阿散井はんも帰ってきとる…」
腕を組み、笑顔はそのまま。
「最悪っっ…」
走りながら吐いた言葉。何をそんなに慌てているのか。
「あれを忘れてくるなんてっ」
昨日から今日まで必死になって作った、市丸へのプレゼント。
「阿散井持ってきてくらてるかな…」
喜ぶ顔が見たいのに。
慌てて帰ってきたからだ。やっぱり隈残ってでも帰ってこればよかった。
そうこうしてる間に六番隊舎へと着いた。ゆっくりと襖に手を掛け顔を覗かせる。
「十番隊、日番谷だ。阿散井は居るか?」
反応が無い。キョロキョロ見渡しても人影が無い。
「……六番隊に何用だ?」
「うわっ?!朽木…」
顔だけ中へと入れていた日番谷は、後ろから声を掛けられ慌てて振り返る。
「悪ぃ、阿散井は居るか?」
「あヤツは自室だ。遅刻してきた罰に書類を大量に渡して篭らせた」
「あ…あはは…遅刻……」
笑えない。俺のせいだ…
「じゃ、そっち行ってみるわ。じゃな朽木」
逃げ出すようにその場を離れ、次に着いたは阿散井の自室。
「阿散井…?」
反応が無い。
「おーい…」
やはり無い。
「ここは一番隊舎じゃあらへんよ?」
朽木の時と同様に、後ろから声が掛かった。それは、阿散井とは到底思えない訛りの掛かった声だった。
「市丸っ…」
「えらい驚きようで」
「いや…これにわ訳が――うわっっ?!」
話しの途中だった。突如、目の前は市丸から床へと変わる。目線も高い。
「やだっ!降ろせっっ」
日番谷は市丸の肩に担がれていた。
「うっさい口や。大人しくしぃ」
「っっ〜〜馬鹿っっ」
腰を固定されている事もあり、逃げ出せない。
こいつは怒っている。それは嫌でも判る。だから怖い。
「嘘吐きは大嫌いや」
そう言うと市丸はある場所へと日番谷を連れ込んだ。
ぴちょん、ぴちょん。水滴が落ちる音。
あたり一面、霧掛かった白い世界。そして、蒸している室内。
――ドポーーンッッッ
肩に担がれた日番谷は、その場所へ着くなり放り投げられてしまった。凄まじい水飛沫。
「痛ってぇ〜…何すんだよ馬鹿野郎!!」
放られた場所から顔を出して。死覇装に纏わり付く水分が体を重くする。
「何って…なぁ」
「風呂なんかに連れ込みやがって」
「悪い?」
「しかも何で俺が湯船に投げられないといけないんだっっ」
「他の男と一緒やった体、綺麗にせんと。やろ?」
にっこりと、微笑んで。
「っっ?!」
「あら、覚えがあるん?冗談やったんになぁ」
市丸は浴槽の淵に腕を預け、頬杖をつきながら此方を見ている。その顔が怖くて、俺は湯船の端まで引下がった。
「逃げんといて」
「ひっ――」
お湯の中に手を突っ込み腕を掴まれた。
ゆっくりと寄せられて、市丸の歪んだ笑顔がもう直ぐ其処。
ニタリと不気味に笑いかけられ、俺の頭の中で警笛がなった。”ハヤクニゲロ”と。
「おね…お願い……離してっ」
「なぁ冬……これな〜んだ?」
「な…に…」
俺の目の前に差し出された小さな小瓶。紅く、紅く艶めいた液体がゆらりゆらりと揺れている。
「あれ?分からへん?」
日番谷の脅える表情に満足げな笑顔。
「ああ、そうか…冬、使った事あらへんもんなぁ」
ケタケタ。さも嘲笑うように。
「”媚薬”って知ってはる?」
キュキュッ。コルクの栓が抜かれる音。
「び……やく…?」
「そうや。僕の可愛い可愛い冬が素直になる為に必要なお薬や」
そう言うと、市丸はその小瓶を自らの口へと持っていき口内へと流し込む。喉は動かない。飲まずに、ただ口内へ入れただけ。
「市丸…………ぅんっっ――?!」
突如、頭を摑まれ顔を寄せられた。
とろん……。
深い口付けの最中、半ゼリー状の甘い液体が市丸の口から流し込まれた。何度も何度も角度を変えられて、息苦しさに離れたくても、支えられた手が強くて逃げれない。
市丸の長い舌が日番谷の舌を絡め取る。
「ふ…んっ…ぅんっっ」
限界。
長い間、呼吸のままなら無い状態だった日番谷は、腕をジタバタさせ市丸の背を叩く。
名残惜しそうに重ねた唇は離れていき、漸く呼吸が出来た日番谷は流し込まれた液体を不意に飲み込んでしまった。
「…はぁっ、はっ…」
乱れた呼吸。
「いやらしいなぁ」
ケタケタ。尚も可笑しそうに。
「さ、冬。正直に話してみ」
「何…を…」
「昨日、誰と一緒に現世行きはったん?」
「誰と…って……一人、で…っっ!!」
一人で行った。そう言おうと口を動かしたが、それは直前で止められて。俺の目の前には、真剣な面持ちの市丸。
頬に手を添えられ、真紅の瞳が此方を見据える。
「冬、僕は正直にって言わへんかった?」
「――っ!!」
目が…逸らせない……。
浴槽には熱めの湯が張られ俺の体を温める。
頬は熱さにより桃色となり、額にはじんわりと汗が滲む。
なのに…なのに、何故だろう…鳥肌が止まらない。
「あ…阿散井と……一緒に…」
消えそうな声で、市丸の求めるそれに答える。
だけどそれ以上は言わない。
「一緒に…何してはったん?」
いや、言えない。
「討伐…」
搾り出して、出た言葉がこれ。市丸の眉がピクリと動いた。
「まぁええわ…」
一言、そう呟くと市丸は日番谷を抱え湯船から上がらせた。
「…脱ぎ」
「え…?」
「その格好でずっと居るん?」
「あ…」
湯のある所へ放られたのだから、濡れていて当然。
そもそもは市丸がやった事なのだけど。
「着替えるから…市丸は隊舎で待ってて」
恥ずかしさもあったけど、何よりこの雰囲気を何とかしたかった。
あわよくば、その隙に阿散井の元へ行こうか。なんて。
「着替えるて…変えの服無いやろ??なんに僕、隊舎に戻ってええの?」
「じゃ取って来て…」
「嫌。」
即答。
「乾くまでここに居ろっての?」
「それでええんちゃうん?」
「……良くない」
はぁ。
大袈裟に溜息を付いた日番谷は、袴の裾を絞り、そのまま風呂場を出て行こうとする。
「ああ…あかんなぁ………」