「おはよー」
「遅ぇーよ」
部活帰りに立ち寄る、慣れたコンビニ。自転車に跨がりたむろしていたのは、西浦ーぜの面々。
今日は部活が無い、完全な休日。そこで、前々から見たかった最新の映画を見ようと集まったのだ。
「三橋も来れたら良かったのに」
「本当だよな。アイツ映画みたいって言ってたのに」
今いるメンバーは、三橋を除いた9人だった。昨日、急に決まったから無理強いは出来なかった。
「仕方ないよ。明日、映画の話ししてやろーぜ」
じゃ、出発ー!!
花井を先頭に、皆は駅に向い自転車を走らせた。
【知りたくなかった、パパの気持ち】
駅に自転車を置いて、電車に乗って。
付いた場所は大型ショッピングセンター。その中にある映画館へ行くと、物凄い人山が蠢いていた。
「ぅわ…さすが日曜日」
「一発で入れっかな」
「……無理だろ」
右から左から文句の声が発せられる。行きたいって言ったのは皆一緒。故に当て付けられる人物も無いままグダグダと時間は流れて行った。
「とにかく並ぼうぜ」
言ったのは花井。
部活以外でも統率をとるのは正直疲れる。
はぁ、と大きな溜息を一つ、財布片手に最後尾へと並んだ。
1幕が開いて、2幕目の列。そこに何とか入れて一安心の表情。
と、泉と話をしていた田島が何かに気付き背を延ばす。
「ああっ!」
突然の大声。
そのまま駆け出して、人込みに消えて行く。
「おいっ、田島っっ!!」
さっぱり意味の分からない行動に呼び止めても振り向きもせずに一直線。放って置く訳にもいかず、皆は慌てて田島の後を追った。
「三橋っ!!」
一目散に駆けて行ったそこには、薄茶のふわふわな髪の毛。それは、予定があると来なかった三橋の姿だった。
「た、田島 くん 」
呼ばれた三橋は当然驚いて、大きな目をパチクリさせていた。
「あー三橋だ」
「えっマジ?」
「おーい三橋ー」
次から次へと駆け足で知った顔が寄って来て、三橋は声が出ないのか口を鯉の様にパクパクさせていた。
「お前っ、予定あるって!!」
一番最後に来た阿部が、皆を掻分けながら問い掛けて、その表情は明らかに怒ってますといった感じ。
「俺の誘い無視して映画見に来たのかッ!!」
「あ、あああ阿部、く ん 」
「誰と来たんだ!言ってみろッ!」
「ぅ…あ……」
浮気現場に遭遇した恋人に問詰めるかのごとく、阿部は凄まじい剣幕で言葉を浴びせ掛ける。
マシンガンの言葉攻めに、三橋の眸に涙が溢れ出した。
「止めろって」
何時もより少し低めのトーンで、ずっと様子を伺っていた栄口が止めに入った。
阿部はまだ言い足りないのか、三橋に向ける視線は今だ睨みを利かせたもの。
それも当然、阿部は三橋に対して友達とかバッテリーとか以上の感情を持っている。それは横で見てるだけで痛いほど伝わってくる。
今日も予定があるなら、と我慢に我慢を重ねての結果だった。
なのに同じ映画館に居たんだ。感情的になるのも仕方が無い。
でもココでべそを掻く三橋を黙ってなんて見てられない。俺だって三橋の事………なんて言わないけどさ。
「三橋は誰かと来てるの?」
「え……と…」
「お母さんと?」
中学には友達居ないって言ってたし。高校はずっと俺達と一緒。
だから他の相手なんて……親しか検討が付かない。
しかし三橋はお母さんと言うフレーズに首を横に振った。
「一人なら俺と一緒に来い!」
先ほどまで栄口に押さえ込まれていたのに、阿部は掴み掛かる勢いで三橋に詰め寄っていた。
それが怖かったのか、三橋は田島の後ろに隠れて怯えてしまった。
イライラ。
阿部の額に青筋が奔る。そして、無理矢理連れて行こうと手を伸ばす。
が、田島が起用に三橋を反転、阿部の腕から逃れさせた。
めげずに何度も腕を伸ばす。田島も負けじと三橋を守る。
グルグルグルグル追いかけっこが始まった。
あーあ。と他のメンバーは呆れ果てて混ざる気も起きない。
「廉っ、どうした?」
輪になってギャーギャー言ってたら、そこに混ざる外からの声。聞きなれないけど、そいつが三橋を呼んでる事だけは直ぐに判った。
「ッ慎吾さ、ん!」
三橋は直ぐにその人物の元へと掛けて行った。
「誰だぁ?」
田島が呑気に首を傾げる。
一方、阿部と花井は、その唐突に現れた男の姿を見て顔面蒼白。顎が外れたように口をあけて、声も出さずに何かを言っていた。
「あっははは!何なに?二人とも如何したの??」
「ちょ、田島っ…」
「何だよー」
「いや……顔、あいつの顔に見覚えないの??」
「かおー?」
沖に耳打ちで話されて、田島は三橋の横でこちらを見る男を観察した。
三橋に良く似た髪色で、眠そうな目。
運動をしてるのか、肉付きの良い体格…。
「あああぁぁぁあああッッ!!!!」
誘導的に脳を動かさせて、田島は漸く思い出したのか、男へと指を指し名指しする。
「桐青の島崎って人だろ!」
「おいっ、呼び捨てはマズイって」
泉は慌てて田島の口を塞ぐ。その他も皆判ったのか、顔面が歪む。
「あー、廉のチームメート?」
島崎は漸く落ち着いたらしい西浦ーぜに声を掛けた。返事こそ無いものの、三橋に視線を送ればおずおずと頷いて。
と、そこに阿部が喰らい付いた。
「なんで島崎と三橋が一緒に居るんだよ」
「なんでって付き合ってるから」
「付き合ってるって……!!?」
三橋に問いかけたのに島崎が返事して、それよりも耳を疑いたくなる言葉が阿部らの脳天を突き抜けた。
「俺達は恋人同士なの。今日は久々のデートだから邪魔すんなよ」
捨て台詞を吐いて、島崎は三橋の肩を抱きながら映画館へと消えていった。
恐る恐る振り返った三橋の視線には、しゃがみ込んで動かなくなった阿部の姿。残されたメンバーも互いを見合わせながら、コレは夢じゃないよねと頬を抓り合った。
「お、俺に娘が出来たら……こんな気持ちになんのかな」
ポツリ、花井が一言。
が、返事は何処からも帰る事無く。ただ静かに、第2幕を知らせるベルだけが鳴り響いていた。
END
ウハウハしながらも張り切って書いた島ミハ。
今読み返すと……orz