愛しい思いが募れば、自然、守りたいと思う感情が芽生える。
守るためには相手よりも強い存在で無ければならない。

アイツと俺では剣の腕は埋めようの無い差があって。

だから、それ以外で上に立つ方法を考えたんだ。
お前に頼られる存在になりたいと思う一心に。



【男にとっては二歩後ろを歩く恋人が憧れであり、理想なわけで】



「あ、多串くんおはよー」

間の抜けた声で俺の元へ歩み寄る恋人。
今日は久々の非番で万事屋と飯を食う約束をしていた。今日のデートが昨晩から楽しみで、同時に前々から考えていたあの事を実行しようといつも以上に気合いを入れてのぞんだんだ。

「俺は多串じゃねーって何回言わせんだ」
「別に誰だって良いじゃん」
「良くねーだろ」

予定よりも早く着いたもんだから、待ち時間に溜りに溜った煙草が小さな山を作り上げていた。
今現在も煙草を吹しているのだが、待ち焦がれていたと気付かれれば今日もアイツ中心にこのデートは終わってしまう。
土方は煙草の山を蹴散らす様に火を消し、じゃ行くかなんて主導権を握る第一歩を踏み出した。










「俺、イチゴパフェ食いたい」
「デザートにな」
「じゃミルフィーユ」
「デザートな」
「季節のフルーツタルト全種類」
「……そんなもん後で食わしてやっから、ちったぁマシな飯を探したらどーだ?」

半分吸った煙草を消しながら溜め息と共に煙を吐き出す。
コイツはどこまで甘党なんだ。奢ると言えば毎回甘味処と決まっていて、さすがに体も心配だからと定食屋に連れて来たんだ。
なのに、この定食屋ときたら甘味処顔負けの甘ったるいもの揃えやがって……。店同士の競争やら生き残りやら知らねーが、定食屋なら定食屋らしく定食だけ置いときゃ良いだろーが。

「そんなもんって言ったのはどの口だ?」
「あ?」
「俺の可愛いスウィーツちゃんを、そんなもんって言ったのは誰だコノヤロー」

スウィーツちゃんって………。イタタ、頭痛ぇイタタタタタ。

「お前なぁ、そんな事でいちいちムキになんなよ」
「そんな事って……ハァ、多串くんダメね。駄目だ。うん」
「何だとコラ、俺の何がダメってんだ」

その言葉が気に触って聞きかえす。
先程とは逆の立場になった白黒の二人。

これじゃ駄目だ。銀時に言われるまでも駄目決定じゃねーか。
違うだろ、今日の俺は何時もと違うんだ。

何がって決意が。

「おい、言い逃げたぁ良い度胸だな」
「んー、」
「人の話聞いてんのか」



「……あのさ」



「な…何だよ」

俺の目の前に座る銀時の目が冷やかなものに変わった。
何だか凄く嫌な予感がする。だってほら、たった今噴出したであろう冷や汗が止まらない。

「今日の多串君、めんどくさい。あー帰ろっかな」

は?

え?

いやいや、待って。

お前今面倒臭いって言ったか?帰るって俺を置いて?お前の大好きな甘味を食わずに帰るってか。
そんな事より、何時ものお前ならもう少し突っかかってくるんじゃねーの?面倒って、酷すぎだろう。

「す、すいませーん!注文いいっすかぁー!」

うおっ、俺格好悪ぃ。
何焦って店員呼んでんだよ。何必死に甘味注文してんだよ。何で銀時の顔色伺いながら他に何食べる?なんて聞いてんだよ。

「ありがと。土方、大好き」
「あはっ、はは」

笑えねー。
昨日から考えてた事台無しじゃねーか。

ああ、今日こそは主導権を握ろうと思ったのに。
いつもいつもコイツ中心に始まって終って、嫌だなんて言われたら壊れ物扱う様に丁寧に接して、嬉しいなんて言われたら調子乗って言われるがまま従って………、

「土方ってやっと呼んだな」

モヤモヤと考えながら、ふいに思い出した先程の台詞。
落ち着こうと手に取った煙草に火を点け煙を肺に流し込む。

「ん、だって今のお前は土方だもん」

今って、さっきのも俺だろう。
意識あるぜ?トッシーになった憶えも無いってのに。

「なんだってんだ」

肺に十分なニコチンが充満した所で、やっと落ち着いた俺は銀時へと視線を戻す。
たった今気付いたけど、何か嬉しそうじゃねーか?目が優しくなったっていうか、口許が緩んだっていうか。

「少し前から気になってたんだよね」

注文したイチゴパフェやミルフィーユ、フルーツのタルトにアイスクリーム。次から次へとテーブルを彩る甘味たちに微笑みながら、銀時はスプーンを握った手で俺を指す。

おれ自身に覚えが無いせいか、言われる言葉に不愉快と眉を顰める。

「何か焦ってる感じでさ、態度が冷たいなーって。ああ、銀さん嫌われちゃったのかなーなんて悲しかった」

焦ってる?
態度が冷たい?

もしかして、もしかしなくても、それって俺が主導権握ろうと躍起になってた時じゃねーか。
忘れてた。コイツの洞察力は並大抵のモノじゃねーって事。人の顔伺うなんてしないけど、身に纏う空気で気付いたり人生経験か野生の勘か、とにかくそのどれかが敏感に知らせるらしい。

前に聞いた時は単純に羨ましいと思った。だって、警察にはその勘ってのが必須なのだから。
でも、よく考えたら辛いよな。相手の事を必要以上に伺うなんて神経滅入ってしまう。

「今も悲しいか?」
「全然。土方に不満は無いし」
「そうだ、その名前変えるのは故意か?」

言うと、銀時は愉快そうに口角を歪め俺を見る。

「土方は俺を一番に考えてくれる」
「おう」
「でも、多串君は違うね。どっちかって言うと、銀さんは二の次的な」

ビックリだ。
驚いたよ、そりゃ盛大に。

此処が公衆の面前って事で声は我慢してっけど、頭ん中は高速でイロイロ動いてるから。処理しきれないよ、顔が引き攣って身動き取れない。

「以後……気をつける」
「宜しくー」

男にとっては二歩後ろを歩く恋人が憧れであり、理想であって。当然、俺もそんな下らない事に拘っていた馬鹿野郎。

ああ、俺はなんて浅はかだったんだ。
コイツの上に立とうだなんて馬鹿げた事考えるなんてどうかしてるぜ。

一枚も二枚も上手な俺の恋人。
最初っから知ってる筈だろう。そんなお前に想いを募らせたのだ。

これに懲りたら、二度とこんな考えをしない様に。


なんて。



一人脳内で始末書を製作していた。





END

どう足掻こうとヘタレはヘタレ。