【これって、なに?】2



「三橋ーー!!」
「ぅううっ……ごっごめ、ん なさっ 」
「テメッ怪我したいのかよ!!」
「ゴメンッ なさ いぃぃっっ」

グラウンドに響く怒声。
同時に細々とすすり泣く声。

栄口や花井が交互に様子を伺い、泉が泣き崩れる三橋を宥めていた。モモカンも今日の三橋のぜっ不調をかなり心配しているのだろう、途中、何度も休憩を入れて体調を伺う。同時に、田島の異変にも気付き、悩みが尽きない。

「花井君…」
「はい」

手招きで呼ばれて。
花井とモモカンは皆より少しはなれた場所で話し始めた。

時刻は夕暮れを少し過ぎた、それでもまだ明るい時間。話も纏まったのか、花井は駆け足で皆の元へ戻ってきた。

「今日はもう終わろう。さ、アップして上がるぞ」
「はぁっ?!何で?」
「決まったんだ。仕方ないだろ」
「……はぁ〜い」

納得のいかない表情半分、花井同様、仕方がないと納得の表情半分。全てが中途半端な感じで、今日の部活は終了。皆で部室に戻って着替えを済ませて、他の運動部の声が聞こえる中、自転車に跨り門を潜った。



「三橋」
「なに…阿部、くん」
「手」
「ぅお」

阿部が横に着く三橋に手を差し出した。反射で三橋も手を差し出し、合わさった。

「手が冷たい。今日は早く寝ろよ」
「うん。わかっ た 」
「んで、朝飯しっかり食ってこいよ」
「あり がと 阿部、くん」
「おう」

門を出て直ぐの十字路。そこで皆が其々の方向に散らばって行く。今日も同じ、この場所で手を振り家路に向かっていった。

一人黙って歩いていく田島を見て、三橋は何やら微妙な動きを見せる。

「行ってこい」
「泉、くん」
「気になるんなら、自分で聞けば済むだろ?」
「うん。泉君、は いい 人だっ 」
「明日、聞かせてな」

じゃ。
軽く手を上げて、泉は正反対の道へと進んでいった。





カラカラカラ。
一人の道路に響く車輪の音。



今日は本当に最悪な一日だった。

自分の目の前が真っ暗で。
授業も受けた記憶がない。
人と話した記憶さえない。

今だって考えてるけど考えてなくて、こんなの俺じゃないって判ってるけど、判っててもどうしようもないんだ。
グルグルグルグル気持ち悪い。大好きな野球だって、今日は嫌いだった。

「あーあ」

大きな溜息一つ。
再度、誰も居ない道に響き渡った。





「田島っ、くん!」

俺を呼ぶ声が聞こえた。その声に心臓が飛び出るほど跳ね上がって、同時に、グルグル黒いのが俺の頭ん中いっぱいになった。

「田島 くん!!」

振り向きたいのに振り向けなくて、勝手に足が早歩きになる。

「待ってっ…」

縋る様に掛けられる声。イライラが溢れてきた。

「三橋…」
「ぅ、あ…田島、くん なに?」

言ったらダメだって判ってるし、言うつもりも、考えてさえいなかった言葉。
傷付くって分かてるのに。きっと泣くんだろーなって。
なのに、俺の口は意思とは反対に言葉を発した。



「三橋見てると、イライラすんだけど」



「え…」
「三橋は一人で何もできないんだな」
「田島くん?」
「阿部とか泉とかっ…直ぐ誰かに頼ってさ」



「三橋なんて大嫌いだ」



考えるよりも早く口に出て、時折冷静な自分が出てきて驚きさえする。
言われた本人は、当然の様に驚いていて、あーあ泣いちゃったって、また冷静な俺。
このままうやむやに終わっちゃうのかなとさえ考えるほど。

なのに。

「ほ、ほんとだね」

帰ってきた返事は、想像もしなかったそれで。

「え…」

素っ頓狂な声で聞き返す。

「田島くんの言うとおり、お 俺っ」

元々聞きづらい三橋の言葉。そこに更に嗚咽が混じり聞き取りにくい。だけど田島はじっと耳を傾けて。

「俺っ…一人じゃ何にも出来ない…よ」

認めた。
反論なんて三橋は元々しないけど、認める事も珍しい。
でも、開き直り…にしては何処か引っかかる台詞。

「ムカつく…」
「う、ん…ムカつくね」

珍しい、饒舌な三橋。対して田島は視線を合わせず、外方を向く。

何時もとは逆の二人。

「田島くんに嫌われたら…俺何も出来ない…」

野球も…会話も…全部…。
消えそうな声で三橋が言った言葉は、田島の頭で何度も何度も木霊して。
ジワジワ…目頭が熱くなってきた。

そうか…今日、三橋が阿部に何度も怒られたのだって、泉が三橋の側から離れないのだって、全部…全部俺が三橋を無視してからだ。

「ムカつく…」
「田島くん?」

奥歯をぎゅっとかみ締めて。ビー玉みたいな涙がボロボロと床に落ちる。

「自分にムカつくよ…」
「な、なんで」
「ごめんな…三橋…俺、酷い事言ったよな」
「いっ、言ってないよ。田島くんは本当の事言っただけだ」

ブンブンと首を振って、三橋は懸命に違うと訴えかける。

「三橋の側にずっと居たいよ。三橋が誰かと話してるだけで…俺が俺じゃなくなるんだ」

人を好きになることが初めてで、ずっと側に居たいってのも初めてで…。
三橋と出会ってから始めてがいっぱいで。
好きだって気持ちは分かった。大切ってのも良く分かる。

でも、今の俺はなんなんだ?
この気持ちって、何?

兄貴にオモチャを取られた時に思う、クヤシイに少し似てるけど、でも全然違う。
なんか、こう…腹の中がグルグルグルグル黒いのが渦巻いて、頭真っ白なのに、イライラして。

「俺も…田島、くんの 側 に居たい よ 」

今までずぅっと悩んできた、グルグルする気持ち。結局、それは分かんなかったけど。

「へへ…なんか嬉しーな」

服の裾で力一杯目を擦った。ヒリヒリしてちょっと痛い。

でも、まぁいっか。
なんか今俺、すっごく楽しい気分!モヤモヤも、グルグルもぜーんぶなくなってすっきりした。



少しずつだけど、この気持ちがなんなのか二人で探してみよう。

もう二度とあんな思いしたくないから。




END

少しずつ大人になっていく。そんな感じでこれからも書ければ良いなと思う今日この頃。