外は完全な夜へと表情を変えていた。ジメジメとした空気が日番谷の体に纏わり付く。
「……ぅぐっ…市…丸……」
ここは十番隊隊主室。その部屋からは、滅多に聞こえない啜り泣く声。
「市丸…や…だよ…」
枕に顔を埋めて、声が外へ漏れない様に極小さな声で、日番谷は一人で泣いていた。一人、この部屋で、誰にも聞かれないように泣いていた…のに、
突如、体が宙に浮いた。
「えっっ?!」
突然の出来事で頭が上手く付いていかない。恐怖に思わず愛しい人の名を呼ぶ。
「やだっ…助け…市丸っ!!!」
「どないした?冬…」
会いたかった人の声が自分の真上から聞こえた。
「市…丸…?」
見上げれば、何時も通りの優しい笑みを浮かべた市丸が自分を抱き上げていた。
「何…で……」
「冬が呼んだから…」
「違っ…お前なんか呼んでない!!」
「あぁ、また素直や無い冬に戻ってしもた…」
腰を抱え持ち上げていた体制をくるりと変え、赤子を抱き上げるような体制で再度、抱き締められる。
「冬…僕の腕の中は暖かい?」
確かめるように、そっと優しく問い掛けて。
「……うん」
「僕は今の冬を抱き締めても、ちっとも暖かくあらへん…」
「え…」
肩に顔を埋めていた日番谷は、市丸の声の変化にすぐさま顔を上げた。見れば、市丸は至極辛そうな表情をしている。
「冬は僕の物なんに……裏切られてしもた……」
「…市丸?」
部屋の空気が一気に冷めていく。
「僕には冬だけなんに…許せへんなぁ…」
今まで優しく抱き締めていた腕に力が篭り。
「痛っ…市丸…やだ、降ろせ」
ハッキリ言って、今の俺は恐怖に顔が歪んでいる。怖い。
「なぁ、如何したら冬は僕を見てくれるん?」
ギチギチと、骨が折れるのではないかと思うほど強く抱き締められて。
「放せって言ってんだろ!!」
必死な形相の日番谷を、市丸は可笑しそうに見つめていた。
「別に放したってええけど…」
「え……うわっっ?!」
腕を突如放され、日番谷はそのまま床へと叩き付けられた。
「…ってぇ…」
「あら、痛かった?ごめんなぁ…」
「…っ」
悪びれた感じも無く、未だ市丸は笑っている。
「なぁ、冬、怒ってはるの?」
「ふざけんなっ…テメー何考えてんだよ!!」
「悪い子にはお仕置きせな…やろ?」
「な…に…?」
市丸の目が僅かに開いた。それは恐ろしい程に透き通った赤色で。
「せやから、冬は僕の物だって体に教え込まないかんねや…」
怖い…早く逃げないと。日番谷は後ろへと後退りをするが、すぐさま市丸に足首を掴まれ引き戻される。
「逃げたらあかんやん」
「や…やだっ」
日番谷の瞳からは、先程とは違う涙が溢れ出す。
「そうやって阿散井はんを誘惑したん?」
「何…で…」
市丸の顔が近づく。
「ククッ…僕が怖いん?」
「い…市丸………ぅんっっ」
市丸は噛み付く様に日番谷の唇を奪った。
「ぅうっん…やぁっ……ふぅっ」
何度も何度も舌を絡ませ深く吸い取る。日番谷の口からは飲み込みきれなかった唾液が溢れ出た。
「はっ…ぅあっ、やぁっ…市丸…」
「何が嫌なん?此処こんなんにして…」
「!!」
市丸の手が日番谷の下腹部へとあてがわれ。
「違っ…」
「違う事あらへんやん」
置いてあっただけのその手は、ゆっくりと小さいながらも反り立った雄を袴の上から扱き始めた。
「あぁっ…あっ、やだぁっっ」
「体は正直やで?もっと欲しいって腰動いてるやん」
「お願い…止めて…」
扱きを止めないその手を、日番谷は剥そうと必死に抵抗する。
「…邪魔やなぁ」
「いやっっ」
市丸は邪魔な両腕を片手で掴み、日番谷の腰紐を外すと、くるりと体をうつ伏せにさせて素早く結び付けてしまった。
「ククッ…ええ眺め」
「外せ!!嫌だ!!」
未だ抵抗を止めない…
「はぁ〜。よう喋る口や…その口も塞いでまうよ?」
「……っ」
咄嗟に口を閉じる。
「ククッ…嘘やよ。冬のええ声聞けへんの、僕が嫌やもん」
「?!」
「さぁ…お仕置き、始めよか……」
何でこんな事に……。元はと言えば、市丸が浮気をするから……。
何で俺が裏切ったって言われないといけないんだ。なんで怒りを俺に向けるのか。それなのに、市丸はどうしてそんな悲しい顔をしているのか。
泣きたいのはこっちだってのに…。
ぐちゅぐちゅと生温い音が部屋に響き渡る。
「はぁっ…う…んぁっ」
日番谷は既に全てを脱ぎ捨てられ、全身を市丸に曝け出している状態で。
「うぁっ、やっ…あぁっ」
市丸は全身をくまなく舐め上げる。勿論、扱く手は休めずに。
「市丸…もっ…出…」
日番谷が絶頂に達する時の何時もの合図。
「駄〜目」
「んあっ…」
今まで扱いていた手を止め、強く握り締める。
「嫌っ…何で…」
「これでいってもうたらお仕置きの意味無いやん」
頭が朦朧としてきた…もう、何も考えれない。
許さない。許さない。
誰を?
そんなの冬に決まっとる。
決まっとる?
本当に?
否、本当は僕自身を、や
「ひぃっっ」
突如、日番谷は痛みに顔を歪める。
「やっぱ、慣らさんときっついなぁ…」
「あ…ああ…っっ」
市丸は何時もの様には慣らしもせず、無理やりに自身を突き刺す。だが、先走りの液が多少の潤滑作用になったらしく、日番谷の蕾は切れる事無く市丸を受け入れた。
「っふあっ…ぁあっ…痛っっ」
「ほら、もっと足開き…」
両足を無理に開かせて。
「あああっっ」
余りの痛さに顔面蒼白の日番谷は、しかし、必死に何かを訴えようと口を動かす。
「いち…ま…大好…き、だから…他の人と一緒に居ちゃ…やだ…」
判ってた。冬が僕を裏切る訳がないなんて。
でも止まらへんかった。傷つけた後に思い出すなんて…
「冬…今なんて…?」
「ひっく…うぅっ…」
泣きすぎて呼吸が定まらない。
「冬…」
市丸は泣き崩れる日番谷を包む様に抱き上げて、そして腕の紐を解き、泣き止むようにと願いを込めながら、優しく背中を摩ってやった。
「……市丸が好きだから…嫌だ…こんなの」
「僕が好きって……ほんま?」
「なんでっ…嘘付かなくちゃいけないんだ…」
紐を解いた手は赤く腫れあがり、くっきりと痕が残っていた。その手を取り、ぺろりと舐めて。
「……っ」
「ごめんな…また冬を傷付けてしもた」
泣きそうになった。いや、泣いてるのかもしれない。段々と心に開いた穴が埋まっていく。
「…阿散井はお前のせいで傷付いた俺を慰めてくれていただけだ」
「うん…」
「疑われる様な事は何もしていない」
「うん…」
「じゃぁ、次はお前の番だ…」
日番谷の目から零れる涙は、気付けば止まり、その眸は静観に徹していた。
「お前と一緒に居たあの女性は誰だ?」
ずっと気になっていた事。初めて松本から聞いた時は目の前が一気に暗くなったのを憶えている。訳が判らずに、ただ愕然とした。
裏切られた。始めはそう思っていた。だけど、どこか冷めた自分が居て、諦めも早かった。
でもやっぱり大好きだから、誰にも市丸を譲れない。譲りたくない。
「あの人と僕は冬が思っとる様な関係やない…」
「濁すなよ…」
胸にチクリと針が刺さる。
「話せない…か?」
「ちゃうよ…あの人は…」
話の最中に突如、市丸は下を向いてしまった。
「何だよ…」
「せやから、あの人は……う、うえっ…」
「うえ?」
なんだかハッキリしない…。ジワリジワリとイライラが増していく。
「じれってーよ!早く言え!!」
「そんな急かさんで…」
何だ?!この女々しさは。さっきの勢いは何処行きやがった。
「で?」
「あの人は…ウエディング・プランナーっちゅう人なんよ…」
「は?何だそれ…」
「これは現世の言葉で、簡単に言えば、結婚式までの仲介をしてくれはる人なんや」
「結婚式……?!」
その一言に漸く頭が付いて来た。
「僕…冬と結婚したかってん。そうすれば誰も手ぇ出さん思うて…」
「市丸…」
「なぁ、ええやろ?僕と結婚したってや…」
思いもしない結末。
「嫌やった?」
不安…と顔に出ている市丸は、今にも泣き出しそうな弱々しさを纏っていて。
「お、俺で良ければ……って、馬鹿か!そんなの無理に……っ」
「冬…」
―――ポタッ。
日番谷の瞳から、今日三度目の涙が零れ落ちる。それは今まで流した事の無い程暖かな物で。
「ありがとう…ちゃんと返事貰ろたから…」
「……うん」
「幸せにしたるからな〜市丸冬獅郎はんww」
「馬鹿!勝手に名前変えんな!!」
漸く、二人の顔に笑みが戻った。
そのまま二つの影はゆっくりと倒れ、お互いを確かめ合うかのように体を重ね合った。
お互いを思い合う事は、お互いを信じ合う事。そんな綺麗な恋愛なんて俺には出来ない。
だけど、どちらかが闇に足を捕られたら、この身を削っても助け出す。
好きだから。大切だから。
だから、前が見えなくなる時も有る。
恋に罹ったら最後。この病は治ることを知らない。
END
ウエディングって……(爆)市丸さんの必死さだけ伝われば嬉しいですはい。