『ねーねー、三橋』
『な、に?』
『明日、俺の誕生日なんだ』
『うおっ!おめでッ――』
『今言ってどーすんの』
『ごめ、ん』
『明日さ、俺と三橋の二人っきりの時に言ってよ』
―おめでとう―って。
【君は苺ショートケーキで美味しくて】
早朝練習も慣れてきた今日この頃。欠伸をしながらもウォーミングアップを済ませる。
モモカンの指揮が始まるちょっとした合間に、田島は探し人を見つけ呼び止めた。
「あ、三橋ー!」
「うおっ、田島くん」
呼べばくりくりの眸が自分に向けられて、昨日の努力が報われる時を待ち焦がれていた。
「三橋、ちょっといいか?」
「阿部君…な、なに?」
なのに。
なのに、不意に阿部に呼ばれた俺のコイビト。尊敬に値するらしい阿部が自分を呼んだんだ、俺の声なんて聞こえてなかった様に行ってしまった。
「マジかよ……」
楽しみに待ってるのに…。
「ま、いっか。今日はまだ始まったばっかりだしねー」
「何だ?どうしたんだ田島?」
「なんでもなーい」
ちょっとだけ自分に言い聞かせるように声を出す。
あー早く言ってくれないかな?
『誕生日おめでとう』って。
みんな言ってくれた、おめでとう。母さんも、部活の皆も言ってくれた。あ、阿部からは聞いてないぞ?別にいらないけど。
三橋は寝坊したとかで駆け込んできて、そんで直ぐに阿部に捕まって話もしてない。
さて、今日の朝連も無事終了。今からは俺と三橋とその他二名だけがいるお勉強の時間。
「わわっ!ちっ、ちこくー」
「三橋遅っせーよー!!」
チャイムと共に駆け込んできた三橋に、ちょっとだけ八つ当たり。阿部なんて無視して俺と一緒にクラスにこれば遅刻しないのに。
「ううぅ……ごめん、なさっ」
「うげっ!うそ!ウソだって!!間に合って良かったな!」
「うん。ごめんね……ありがとう」
「お、おう…」
危なかったぞ。喧嘩なんてあり得ないって。年に一度の、しかも三橋と始めて出会った年の誕生日なんだから……慎重にいかないと。
「あ、あの…田島くん」
「ん?」
きたッ!!
「おーい授業始めるぞー」
軽快な引き戸の音を纏いながら先生が教室に入ってきた。なんてタイミングの悪い…先生も、三橋も。
結局、授業中に話をするわけにもいかず、挙句、休憩時間は泉と浜田が邪魔をする。
あ〜あ。二人っきりの時に、なんて言わなけりゃよかったな。実際、考えてみりゃ二人っきりなんて滅多に無い事だ。
俺の馬鹿!
「あ、三橋ー。阿部が呼んでるぞ?」
考えに耽っていた。
今は昼食の時間で廊下と教室の間に何故か不機嫌な阿部の姿。駆け寄った三橋の首根っこを掴み、俺の視界から消えていった。
「あちゃー阿部の怒りは収まってないか」
「え、なに?」
泉の言葉に眉を潜める。見上げれば溜息を付く泉と目が合った。
「なにって…お前聞いてなかったの?」
「知らない」
「三橋がさ、阿部が組んだスケジュール無視して投球してたんだよ」
「なんでそんな事?」
「さあ。でも、今日は早く帰りたいから朝のうちに投げたいって言ってたな」
「……そんな無茶」
「確かにな。三橋にしては珍しい我侭だよな」
「う……ん」
三橋は早く帰りたいのか……家の用事かな…寂しいな。今日はずっと一緒に居たかったのに、なんか落ち込んじゃうよ。
「泉ーもう一回言ってよー」
「なにを?」
「誕生日おめでとうって」
「は?やだよ」
「……ケチ」
ああ…ヤバイ。本気でへこんできた。おめでとうの一言だけでこんなに情緒不安定になるなんて。
その後、三橋は弁当を持って阿部と本格的に消えていった。
授業の始まるギリギリに帰ってきて、授業を受ける。目は薄っすらと腫れぼったくて、きっと泣かされたんだと思う。
阿部ってマジムカつく!信じらんねーよ。俺のコイビトを勝手に泣かすなってーの!!!
ダーーーー!!イライラする!
「田島く、ん……」
「なに?」
「ちょっと、いい?」
苛々してたら授業が終わっていた。今からは楽しい楽しい部活の時間。
拗ねてる俺に三橋が話しかけてきたけど、ちょっと意地悪して不貞腐れてみた。
直ぐに俺の異変に気付いた三橋はあわあわと視線を彷徨わせていて。
そうこうしてる間に泉に呼ばれ二人並んで駆けて行った。
三橋、二人っきりになろうとしてたのかな?
ちょっとした罪悪感もあったけど、今日一日の期待と比べたらたいして気にもならなかった。
まだ、今日が終わったわけじゃない。
「えーーーー!!!!三橋帰ったの?!?!」
「煩い!そんな大声出すなよ!」
「だって…だって俺、聞いてないって……」
ダウンをしようと明るい場所に移動している時、三橋が居ない事に気付いて阿部に詰め寄った。返ってきた返事は、三橋は先に帰った。それだけ。
そう言えば、早く帰りたいって言ってたんだよな…。
「酷えーよ」
「何がだよ」
「なんで俺に黙って帰すんだよ」
「三橋帰るのにお前の許可なんて要らないだろ?俺の許可だけあればいい」
「うわっ最低」
「煩い。早くダウンしろって」
「……はぁ〜」
部活の帰り、コンビニに寄った。花井が皆からの誕生日プレゼントって苺のショートケーキを買ってくれて、疲れた体に甘いのがジーンと染みて美味しかった。
ここに三橋が居たらもっと美味しかったんだろうなって考える。
「ケーキありがとー!また明日ねー」
「おーおやすみー」
自転車をダラダラと漕ぎながら家に向かう。はぁーと盛大な溜息も夜の闇に吸い込まれて。
「あん時に素直に三橋の言葉聞いてればなー」
悔やんでも悔やみきれない、あの時。部活へ行く前の教室で、三橋のちょっといい?を聞いてれば…。
「……飯食ったら電話しよ…」
やっぱり聞きたい!言わせたい!俺だけに、俺だけのためにおめでとうって。
それが男のロマンだよな!ゲンミツに!!
「――く〜ん……」
「ん?」
「田島く〜ん!」
「えっ、俺?!」
弱々しい声に振り返れば、懸命に自転車を漕ぐ三橋の姿。
「三橋!?用事は??」
「お、終わった、よ」
「如何したんだよ、息切らして」
すごい勢いで自転車を漕いだのか、三橋は肩で息をしながら何かを言おうとしている。
「も…もしかして三橋…言いにきたの?」
「うん。それと、ね…コレ……」
「え?」
三橋の手に誘われるまま、視線を下へと落とした。
自転車の籠に納まる、白い箱。真っ赤なリボンが可愛く飾ってあって、それが何なのかを容易に知らせてくれた。
「お誕生日、おめでと、う」
差し出される、白い箱。驚きに呆けながら受け取った箱はひんやりと冷たかった。
「ありがと……うわ…俺泣きそう」
「な、なんで?!」
「だって、三橋が先に帰っちゃって…おめでとうなんて言って貰えないと思ってたから」
「早く…帰った、のは…それを買う為だったん、だ」
「これ?開けていい?」
「うん」
帰り道の途中にある公園に立ち寄って、ベンチに腰掛けて、素早く箱の中を覗く。
「うわっ!美味そう!!」
そこには真っ赤で艶々な苺が乗ったショートケーキが二つ。ちょっと潰れた形が、急いで駆けつけて来てくれたんだとにやけてしまう。
「二人で食べよう!」
「う、ん!」
ガサガサと銀紙を捲って。
パクパクパクと食らい付く。
「美味しい、ね」
「うまい!!」
おめでとうって言ってもらえて、プレゼントも貰った。
さっきも食べた苺のショートケーキ。同じだけど、やっぱり違う。
10人のおめでとうより三橋1人のおめでとうがこんなにも嬉しい。
「三橋、苺食う?」
「うえっ…でもそれ、田島くん、のだよ」
「俺も食うよ。半分ずつな!」
「うん…?」
人差し指と親指で摘んだ大きな苺。
それを三橋の口元に持っていき、丸ごと頬張らせた。
「んん!」
「へへ。美味しい?」
コクコクと頷きながらも、戸惑っている三橋。
「じゃ、半分貰うね」
チロリと苺に負けない真っ赤な舌を出しながら、三橋の口を抉じ開ける。
「んっ…んぅ…」
「おいしい」
「ふ、ぁ…田島、くん」
「なんか、三橋が苺ケーキになったみたい」
ペロペロと犬の様に頬まで舐めて。
「ご馳走様でした!おいしかった!!」
「うん!また、食べたい、ね」
「今度、このケーキ屋さん紹介してよ!んで、一緒に食べに行こう!」
「行く!楽しみ、だね」
今日一日のガッカリやイライラも、三橋の笑顔が全部忘れさせてくれた。
三橋と俺の初めてがいっぱい詰まった今年の誕生日。
来年も再来年も、これからもずっと誕生日には苺ケーキを買おう。
幸せを思い出して、それ以上に幸せになるように。
ずっと、ずっと、苺ケーキと君の笑顔が見れますように。
END
田島ハピバ小説でしたvv