届かないって知ってるさ。
それで諦めがつくならとっくに忘れてる。
諦めきれないから、
断ち切れないから苦しいんだ。
だから………
【一度だけ。】
「阿部くん……ど、した の?」
放課後、俺は体育倉庫に三橋を呼び出した。
手にはユニフォームの入った手提げを持って、もう片手には硬式ボールを握っている。
「悪いな、突然」
静かにそう告げれば、三橋はブンブンと首を振り苦笑い。
どうせ、今のこいつの頭の中は野球の事で一杯なんだろう。いや、田島か?アイツを待たせてる事が気になるのか。
「今日は伝えたい事があるんだ」
「え……?」
お前と出会って、一緒の時間を過ごして、少しずつ胸を焦がしたこの想い。
「お前が好きだ」
忘れようと努力はした。田島との関係を知って、必死になって忘れようとした。なのに燻っていた恋の火は、消えるどころか轟と成し俺を攻め立てる。
苦しい。
このままだと、俺は俺じゃなくなってしまう気がして。
漸く立ち上がったこの絆も一瞬にして打ち砕いてしまう、そう確信したんだ。
「な、に……阿部君……怖い、よ」
一歩、また一歩と三橋が後ずさるから、俺は離れない様にと詰め寄った。じきに壁にぶち当たり、三橋は逃げ場をなくして下を向く。
予想はしてた。
最悪、逃げ出されるんだろうなと思ってもいたが、三橋はそれ以上逃げる事も暴れる事もしなかった。
一度伝えた思いを取り消すつもりなんてない。そんな軽い気持ちならこの場に呼び出すこともしないから。
ジリ……。
十分に詰まっていた二人の距離が更に縮まる。
頬に手を添えられたかと思えば額が重なり、
「阿部…くん………?」
カタカタと小刻みに震える肩。
怖いよな。好きでもない奴に迫られて。
ましてや、お前には大切に想う相手が居るんだ。
ごめん。
ごめん。ごめん。
これ以上、大切な仲間を裏切らないから。
もうお前を想う事も止めるから。
「三橋………ごめんな」
だから一度だけ、
「―――ッ!?」
重ねた先から伝わる温度。
離れればすぐに冷めて、恋も褪めて。
「お前が好きだった」
明日からは普通のチームメイトに―――
―――――戻れますように。
END
実らなくったって、恋は恋。