「………ギン?」
エンジンの音だけが聞こえる車内。音楽も何も流れていないせいか、やけに静か。ハンドルを握る兄に声を掛けるが返事は返らず、表情から怒っている事だけが読み取れた。
渋滞に巻き込まれながら、そう時間も掛からない内に自宅のマンションへと着いた。車を駐車場に止めて、鍵をかけ、何時もなら笑顔で振り向くその顔も、今は完全に反対を向いて。
体格差のせいか、ギンの早足には走って追いかけないと着いて行けない。話し掛ける隙も無いままギンは備え付けのエレベーターに乗り込んだ。慌てて後ろを追う冬獅郎も、戸が閉まるギリギリで乗り込んで、息を切らしながら自宅のある7階へと到着するのを待つ。
自宅に到着して、ギンはそのまま自室に篭った。リビングに一人取り残された冬獅郎。正直、兄が怒っている意味が判らない。
嘘を吐いた訳じゃない。時間だってそうたってもいない。なのに何であんなに怖い顔をするのか。
「ふぅ〜…どうすっかな…」
ソファーにどっかりと腰掛けて、この後の行動を考える。って、考えたところで、どうするかなんて一つしかない。
このまま兄貴に会わないと、後が酷い。
以前にも一度だけ似た様な事があった。あの時も同じ、兄が怒る意味が判らなくてそのまま無視をしていた。三日ほどその状態が続いて、その日の夜、悲劇が襲った。怒り狂った兄貴に拘束され、なにされ、学校すら行かせてくれなくて一週間の無断欠席。流石に親も心配になったらしく、普段は居ないこのマンションに戻ってきた。
お陰で開放。
今もそれと全く同じ状況だ。俺の頭に警笛が鳴り響く。
「よ…よしっ…!」
意を決して。
手にはあぶら汗。足は小刻みに震え、鼓動が早まる。
一歩一歩確実に前に進んで、目の前には扉。恐る恐るノブに手を掛けて、ちょっとだけ顔を覗かせる。
部屋の中央に置かれた真っ赤なソファー。そこに兄貴は居た。
手には煙草、足を組んで雑誌を見ている。兄弟で言うのもなんだけど、格好良い思う。俺とは正反対。まあ母親が違うから、似て無くても変ではないんだけど。
「ギン……」
伺う様に部屋へと入り、手を後ろにモジモジと入り口に立つ。
「……」
振り向く事もしないで、ギンは煙草を深く吸い、灰皿へと押し付けた。
「怒ってるの?」
「……」
「返事してよ…」
「……」
ペラペラ。
一人の時と変わらず、本を捲る。新たに煙草に火をつけて、フーと大きく煙を吐く。
「っ〜〜もうっっ!!!」
ダンッ!!
下の階に響く位に足を叩き落して、冬獅郎は頬を膨らませて兄の横へ。
暫く上から睨んでみたが、無視。ならばこちらにも考えがある。冬獅郎はその細い足を持ち上げ、ドッカリ、
「っ…冬?!」
「俺を無視するなっ!!」
ソファーに座るギンに向き合う形で跨った。
ギンは組んでいた足を下ろし、冬獅郎はそのまま兄の股に腰を落とす。
「火傷するやろ」
ギンは慌てて火を消して。
「いいもんっ」
完全に拗ねた冬獅郎はそんな事お構いなく、そのまま首にしがみ付いてしまった。
「ねえ、怒ってるの?」
もう一度、確認。
「怒って欲しいん?」
「嫌」
フルフルと首を振って。すると、小さく笑う声が聞こえた。
「可愛え」
首筋にキスをされ、胸元がごそごそすると思ったら、制服のボタンを外されていた。
「っ……!」
肩まで露になって、ペロリ。ギンの舌が線に沿って舐め上げる。その感覚にふるりと体が震えると同時に、脳天に駆け上がる電流。舌の体温が気持ちよくて、抱き締められる強さが心地良い。
ゆるゆると抜ける、腕の力。それをしっかりと支える兄の腕。
「……ベットに行こか」
コクリ、小さく頷く少年。確認して、抱えたまま後ろにあるベットへ向かった。
スプリングの軋む音、まだ暗くなるには早い時間。それでも部屋に充満する蜜の香り。
始めに冬獅郎の服を脱がし、誘うように立ち上がったそこへ手を添える。緊張からか、振れるだけで跳ねる体はそれはそれで興奮を誘う。
「あかん…興奮するわ」
貪る様に唇を絡めあい、女性とは違う濡れる事のないそこを時間を掛けて解き解し、大人のそれを受け入れる準備をさせる。
器用にもその最中にベルトを解き、自身を出して。誘う様に痙攣する蕾へ先端を宛がう。
「ああっ…ひぁっ……ギ、ンッ」
「はっ…冬の中、めっちゃ気持ちええ…」
スプリングの跳ねる音。荒い息、吐息。
「んぁっ…ギン大好きっ……あっぁっ…もっとっっ…」
「冬は淫乱さんやなぁ。僕だけにしときや?」
「ギン……だけだもんっ……あぅっ…はぁっあっ…」
「ほんま?」
糸が切れた吊人形の様にガクガクと頭を上下に、真っ赤に染まった頬に光る雫をペロリ一掬い。
「ほな今からが本番や。今日は寝かせへんから覚悟し」
今日初めて見せた兄の笑顔。冬獅郎はそれを確認して、此方も笑顔。
この部屋から少年の喘ぎ声が聞こえなくなったのは、日付が変わった真夜中だった。
ピピ……ピピピピピピッ。
「ん…」
ピピピピピピピピピッッ。
「……8時か…………」
ガサガサ。
目覚ましを止めて、再度布団に潜る音。
……。
「ッッッ8時ぃぃぃいいい?!?!」
ガシャガジャンッッ!!!ドカッ!!
「冬っ?!」
余りの騒音に飛び起きたギンは、まだ寝ぼけ半分で瞼を摩り、走り回る少年を見やる。
「遅刻だーーー!!!!やっべーーよっ!!」
「学校8時半からやろ?車で送ったるで安心し」
「車はいい。黒崎と行く約束してんだっ」
「黒崎…やて?」
ピタリ、ギンの動きが止まる。冬獅郎はお構いなく学校の準備。
「そんじゃ行ってくるっっ!」
「冬っちょお待って!」
呼び止められて、大きな翡翠を自分に向ける。
下着姿のギンが近付く。綺麗に付いた筋肉が、男らしさを強調して、ドキリ、心臓が高鳴る。
チュッ。
首下に軽くキス。
「気ぃ付けてな」
「うん。行ってきます」
バタバタ。
走って玄関から出て行く冬獅郎を、ギンは笑顔で見送った。
口角が吊り上ったのは、本人しか知らない。
「恋次の野郎……昨日は適当並べやがってっっ」
黒崎医院より少し離れた公園の入り口で、一護はそわそわと落ち着き無く辺りをうろつく。
「誰が信じるかってのっ!!」
呪文を唱える様にブツブツと、傍から見ればかなりの不審者。
ふと、腕時計を見れば時刻は8時を少し過ぎた頃。普段なら自分よりも早くに待っている筈の少年が居ない。
まさか兄貴に……。
「ち、違ーーう!!!冬獅郎が兄貴なんかとっっっ……」
「俺が何だ?」
「冬獅郎ッッ!」
視線を落とせば、何時の間にやら待ち人の姿。眉間に深く皺を寄せて、睨み上げられる。
「お前、変だぞ?」
「へ?俺??」
「挙動不審っちゅーか、落ち着きが無い」
そうかな…一護はポリポリと頭をかき、苦笑い。
取り合えず、時間も時間なので二人は学校に向け歩き出した。
「なぁ、冬獅郎……」
「なんだ?」
「いや…なんでもねぇ…」
テクテクテク。
「なぁ…」
「あ?」
「いや…」
テクテクテク。
「あのぉ…」
「何だよっっ!!」
「ッ……」
テクテクテク。
「……冬獅郎って、好きなヤツ居るのか?」
「えっ……」
俺が問いかけた途端、冬獅郎の目は大きく開かれて。よくよく見れば瞳を右へ左へ、何かを考えている様子。
「居るのか……その…好きなヤツ」
何故か重い空気が漂う。冬獅郎は下を向いたまま顔を上げない。
「…黒崎は…居るのか?」
「へ?」
予想外の問いかけに、思わず声が裏返ってしまった。
でも、正直チャンスだと思う。俺の気持ちを……知ってもらう。
「…好きなヤツ居るよ」
「そうなのか?誰だ?」
「誰って」
やっぱり…。
そうだよな…。
「うわっ?!」
一護は歩く足を止め、冬獅郎の前に立ちはだかる。突然の事で驚く冬獅郎の肩を掴み。
「っっ…俺が好きなのはっっっ!」
プップーー。
「冬ーーー!」
こんな真剣な時に耳障りなクラクション。ついでに、一生聞きたくなかったヤツの声。
「へ?兄貴っ?!」
ハザードを付けて車を歩道に寄せて、そして窓から顔を出したと思えば、ニタリ、忘れないあの笑顔。
「襟、きちんとせな見えてまうで〜」
「襟?え、え、え??」
「―――!!」
言われて俺は視線を落とす。そこには…冬獅郎の透通る純白の首筋に…
キ、キキキ…キスマーーク?!
「ほな。気い付けて学校行きや〜」
俺は動けなかった。冬獅郎は兄貴の言った意味が判らないのか、未だ疑問の表情で。
ふと、恋次が昨日言ったあの言葉を思い出す。
『兄貴と冬獅郎はデキてんだって。下手に手ぇ出したら確実に兄貴にシメられるぞ』
成程。漸く納得できた。
「…やってやろうじゃん」
フルフルと拳が震える。
「やってやらぁぁぁぁぁああああーーーーー!!!」
今はまだ届かないけど。
この思い、
絶対お前に気付かせてやるっっ!!!
END
ぼーいずびーあんびしゃす。