「三橋」

部室へ向かうさながら、丁度渡り廊下を歩いている時だった。後方より声が掛かり、力無く振り替える。

「阿部…くん」
「何お前、顔色悪いぞ?」

覗き込む様に目を合わされ、恥ずかしさで視線を逸らす。それでも真剣にこちらを見て来る。

「……腹、減ってんの?」
「うぅ……」



【いいひと】



「ちーっす!」

勢い良く部室の扉を開けて。更衣場に着く前から服を脱ぎだす器用な男。

「おー田島ーー。今日も元気だなー」
「当ー然ー!!」

ニカニカと満面の笑みを零し。あっと言う間に制服からユニホームへと着替えは済んでしまった。
今日も西浦の4番は元気一杯。つられて周りに居る皆のテンションも上がりはじめた。

「早く打ちてーーー!!!」
「ハハハ、焦んなって」

完全に皆が揃うまで自由時間。ストレッチを始める人や、談笑するもの。それぞれが好きな様に時間を潰していた。

「あれ…三橋?」

同じクラスなのでここに居て当然の筈。自分よりも早く教室を出たのだから、尚の事。しかし、姿を探せど見当たらない。

「ちょっと出てくるっ」

田島はそう言って、部室から飛び出して行った。



「あ……!」

部室を出て直ぐに、探し人は見つかった。視線の先に二人の姿を捉える。

「阿部と一緒だったのか〜」

声を掛けようと、一歩前進。が、その足はすぐさま止められ一点を見詰める。
頬を染めた三橋が阿部から何かを貰っている。正直、ムッとした。

「みっっはし〜〜!!!」
「うわっ?!」

見てなかった振りをして。力一杯駆け寄って抱き付いてやった。
当然驚く三橋。その表情が可愛くて大好き。いつもは其れだけで満足だけど、今回は駄目ならしい。
抱きついたこの手を離したくは無い。

「何やってんの?」
「う、あっ……えっと…」

挙動不審は何時もの事だけど。今回はイライラが俺を支配してるから、なんかムカつく。

「おっ!美味そうなおにぎり!!」
「あ、阿部くんから……もらった」
「阿部…?」

イライラ。知ってたけど、聞きたくなかった。

「俺、腹減ってんの。いただきっっ!!」
「――ッッ?!?!??!?!」
「ごちそーさんっ」
「……(泣)」

三橋にはちょっと悪い事したけど。
だけどダメ。三橋は俺の。誰かから物貰うなんて絶対にダメ。だって、なんかイライラが止まらないんだもん。



そのまま部活が始まって、俺は花井達とバッテリーを組んでいた。チラリと三橋を覗き見て。
誰から見ても力の入っていない投球。阿部に何度も叱られて、頭グリグリされて。周りが心配してるのにも関わらず、メソメソと湿っぽい。

「おい三橋、まだ何かあるのか??」

腹減ったってからおにぎりやっただろ?そう言われて、また三橋が泣き出した。

「ぅう……何でもっ…ない」

明らかに何でも無くない訳が無い。阿部の説教が始まった。
それを隣のフェンスから見ている田島。三橋の泣き顔に我慢の限界が来て、駆け足で側へ。

「みっはし!」
「た、田島…くん」
「そんな泣くなよ。な?」
「う、ん…」

後ろから抱きついて。視線は阿部を軽く睨んでいた。
バチリと目が合って。阿部は何だよと不満顔。

「三橋をあんま苛めんなよな〜」
「なっ、苛めてねーよ!大体こいつがっ」
「はいはい。でも三橋泣いてんじゃん」
「こいつの泣き虫は元々だろ」

二人の言い争いにますますべそをかく三橋。それを安心させるように、田島は三橋を抱く腕を強めた。

「こっち」
「えっ、うわっ!!?」

首に回した腕をそのままに。三橋は引き摺られながら、部室へと連れて行かれ。
残された者は呆然と二人が消えるのを目で追っていた。

「たっ…田島、くんっ??」

唐突な出来事に戸惑いを隠せない三橋。オロオロと動きが落ち着かない。

「ちょっと待ってろ」
「えっ??」

そう言うと、田島は三橋を部室に一人残し出て行ってしまった。訳の判らない三橋はただ従うしかなく。
早く帰ってこないかな…阿部君に叱られちゃうよ…。そんな事を考えて、また一人泣き。

時間的には十分も満たない頃か。ドタドタと賑やかな音と共に田島が戻ってきた。

「ほら、食えっ!!」

勢い良く差し出されたもの。

「――!!おにぎりっ!」

ホカホカと美味しそうな大きいおにぎり。それは先程、田島がマネジに作って貰ったものだった。

「い…いいの?」
「うん。お前の為に持ってきた」
「!!!!ぅう…あり、がとっ」

ウルウルと。今回は嬉し涙が田島を見詰めた。

「どーいたしましてっ」
「た、田島君は…いいひと、だ」
「やった!俺、いいひとか〜!!」
「うん、いいひと」

阿部から貰ったおにぎりを食べられて。そのせいで阿部に怒られて。三橋はすっかりその事を忘れてしまったのか。今、田島の目の前に居る三橋は本当に嬉しそうにおにぎりをほうばっていた。

「やっぱ三橋は可愛いな」
「うう?」
「なんでもなーーーい」

毎日でもおにぎり持って来てやる。だから俺以外にあんな可愛い顔を見せないで。イライラしたら止まらないから。
『いいひと』になりたい訳じゃないけど。三橋が喜ぶなら、ゲンミツに『いいひと』演じきってやる。




END

三橋が阿部に怒られた原因が、自分だとは気付かない天然キング。