俺にも守りたいものがある。
俺だから守れるものもあると思う。
【額に宛がう掌は下へと降りて視界を塞ぐ】
「何で阿部とキスしたの?」
「ぅ…あのっ……」
「ねぇ、何でキスしたの?」
薄暗がりの教室に、壁に背を向ける少年とそれを捕える少年の姿。
辺りは静寂に包まれ付近に人の気配は無い。
「なんか言おうぜ?それとも無視してるの?」
「違、う…」
「じゃ答えてよ。何で阿部とキスしたのか」
自分に怯える目に、直接語り掛ける様に怒声を浴せる。
「き……キス…すると…思わなかった、から」
「思わなかったら浮気していいの?」
「浮気…なんて、してな…い」
話せば話すだけ距離を縮められて、今は完全に密着した体と体。
重ねられた額は横を向く事を拒められ、視線を向ければ大きな瞳が自分を睨んでいた。
「三橋はさ、分かって無いよね」
「え…?」
「それともわざとなの?」
言ってる意味が分からない。分からないけど全身を駆け巡る恐怖が逃げろと警告を出す。
俺は力を込めて顔を横に向けた。
「…逃げんな」
「痛っ…!」
髪を鷲掴みされ、無理矢理顔を戻される。
「三橋は俺のモノ。誰にも触れさせたくないし、側にも寄らせたくない」
「た…じま、くん」
「俺以外が三橋を見るのも嫌だ。三橋が俺以外を見るのも許さない」
息継ぎもなしに吐き出された言葉の嵐。怯えて動かなくなった三橋になおも浴びせかける。
「携帯なんて捨てろ。親なんか無視して俺の家に来い。三橋の人生は俺が守るから。一生離さない。三橋の側を絶対に離れないから」
冷静に聞けば無理な事ばかりを述べられて、それでも田島の真剣なまなざしを見れば嘘を言っているわけではないらしい。
怖くて怖くてどうにもならなくて、でも逃げたいとは思わなかった。
「田島…くん」
「阿部なんかとキスした口で俺に話し掛けんな」
「判った…判ったから……」
逃げる所か、自分に恐怖を与えた目の前の田島に手を差し出す自分がいる。
伸ばした手は真っ直ぐに田島の頬へとあてがわれ。
「泣かない…で」
「泣いてないっ」
「……泣かないで」
頬に当てられた手を濡らす、暖かな雫。ふいにその手を振り弾かれて、暖かだった温もりが消えた。
空を彷徨う細腕。
それを掴む、自分と同じ大きさの掌。
驚いて視線を挙動にさせれば、次には視界が真っ暗に変わっていた。
「田島、くん……?」
「見んな…」
「もう…泣いて、ない?」
「……泣いてる」
「泣かない、で…」
俺の視界を遮る手は震えていた。田島くんの手は弱くて儚げで…そのまま消えてしまうのではないかと思う位に空気と同じ体温だった。
「お…怒らない、でね」
「……」
「俺、嬉しかった…です……田島君に…離さないって言って貰え、て」
申し訳なさそうにそう言って。すると田島は、三橋の目を覆っていた手に力を込めた。強く押されて、三橋は後頭部を窓に打ち付ける。鈍い音が教室内に響き渡った。
「三橋の馬鹿ッ」
「ご…ごめんなさ、いっ」
「離さないなんて前から言ってんじゃんっ!足りないなら毎日でも言ってやる!」
「ぅ…え……?」
「嬉しいって気持ち忘れんな!俺は絶対に三橋を離さない!一生俺のもんだ」
怒られると思った。
いや、怒ってるに間違いは無いのだけど…もっと、こう…別の意味で怒られると思ったから。
「……田島くん、ありがとう」
「三橋なんて嫌いだ」
「うん…でも、俺は田島くんが、好き、だよ」
「……俺も三橋が好き」
天の邪鬼なのか何なのか、そもそも何でこの話になったのか。
徐々に三橋の頬が緩み出した。田島もつられたのか、微かに笑う声が聞こえる。
「ね、ぇ…手をどけて?田島君が見えない、よ」
「駄目やだどけない」
「なっ、なんで?」
「三橋を守るって言ったのに泣いてるなんて格好悪い」
そう言って、また二人で笑った。今度は少し大きめの声で。
「三橋が好きだ」
「うん。俺も田島君が好きだ」
「愛してる」
「おれ、も…愛してる、よ」
そっと重ねられた唇。同時に、田島の手によって覆われていた視界に光が差し込む。
うっすらと目を開ければ、パチリと重なる互いの視線。何だかくすぐったくて、また二人で笑った。
END
カオス田島第二段v