まあ、生まれてきた事に罪はないから。


って、訳で。



【おめでとうとは言わないけれど】



「うぇぇぇぇー……」

昇る朝日に頭を項垂れ、挨拶でもするのかと思いきや嘔吐を一発。
昨日、人手が足りないからと呼び出されたかまっ娘倶楽部でのバイトが、今朝方漸く終わりを迎えたところだった。

「ちと呑みすぎたなぁ」

ボサボサの頭を掻きながら、遠くまで澄み渡る夏の空を見上げる。
今日もいい天気。もう暫くすれば、太陽が我が物顔で地を熱していくだろう。

今は早朝。
日陰に入れば、通る風は心地良い。

「公園で休んでくか」

今の時間、丁度木陰になるベンチを知っている。
あそこで酔いを醒まして、炎天下になる頃合に家に帰って給料袋を手渡そう。そうすれば、今日一日位は扇風機を独占してゆっくりと過ごせる手筈。





ドンッ!

バタバタバタバタッ―――!





「うおぉッ?!」

一人頭の中で作戦を練っていた時だった。
腹を抉る様な爆音に、凄まじい数の羽ばたき音。

何事かと間抜けな顔で音源を見上げれば、空一面、真っ白な鳥によって染め上げられていた。

「凄ぇ……」

目の前に広がる数十羽の鳩の群れ。
優雅に空を舞い、弧を描き、線を引いて風を切る。

めでたいな。
素直にそう思った。
鳩は平和の象徴だもんな。それが群れを成して羽ばたいてりゃどんな悪人だって幸せを感じることだろう。

「鳩、か……」

呟いて、想いに耽る。

「8月10日ね」

今日は奴の誕生日だった。
もう数十年も前に祝ったきりの誕生日。

お前はこんな平和な日に生まれたんだな。
お前もこの青い空を見上げてるのだろうか。見上げて、何を思っているのか。

「まさか平和を……なんてな」

ああ、思ってそう。
奴は奴なりの平和を守ろうとしてるではないか。
例えそれが間違っていたとしても、自分の信じた光を只管に追っている。

「変わったのはどっちなんだか」

今は正反対の道を歩む俺達だから、お前に祝いの言葉なんて送れないけど。

「生まれてきてくれてありがとう」

これ位は言っても悪くないよな。




だって、


幸せと感じた日々は、俺の心にしかと刻まれているから。





END