下を向いてても、何も見えないよ?
ほら、顔を上げて。
そこにはきっと、
【何処までも続く青い空】
「三橋ー」
えぐっ…えぐっ。
「おーい、みぃーはぁーしぃー」
ぐすっ、ぐすっ。
早朝練習も終ってクラスに戻って、今は朝礼が始まる少し前。
机に顔を埋めて、一向に泣き止まない三橋。前の席に座る田島は、同じ机に顎を付き眺めている。
先程から何度も名前を呼ぶが、返事が無くて。泣いている理由は知っている。毎度の事、阿部に叱られて大泣き。
普段ならもうそろそろ泣き止むはずなのに、今日は何時もより長く怒られたから、泣くのも何時もより長いらしい。
田島は、泣き止めとか無理強いはせずに、ただ名前を呼んで、後は三橋を見詰めるだけだった。
そうこうしている間に、開始のチャイムが鳴って、その後直ぐに教師が入り、挨拶が終った。
授業は本当に詰まらなくて、毎朝早いから1限目にも関わらず欠伸が留まらない。
ふと、横目で三橋を覗く。
相変わらず、顔は下を向いている。さすがに泣いてはいないみたいだけど、なんだかモヤモヤする。
三橋を見ていると、自分まで悲しくなってきた。
田島は少し大袈裟に溜息を吐く。それは静まり返った教室に吸い込まれ、消えていった。
「三橋」
何とか授業も終って、僅か10分の休憩時間。田島は再度、三橋の前に陣取って名前を呼ぶ。
やっぱり泣いていないけど、下を向く顔。
「笑ってよ…」
「え…?」
「三橋が笑ってないと、俺も悲しいみたいなんだ」
「田島…く、ん」
田島は、先程感じたモヤモヤを三橋に説明した。すると、何故か三橋はゴメンネと謝って、また泣き出した。
「なんで?」
「だって…た、田島くん 俺のせい で 」
「だから、何で泣くの?俺また悲しくなっちゃうじゃん」
「ぅぅ……ゴメン なさ い 」
平行線。
イタチごっことでも言おうか、同じ事を繰り返す二人。
「わかった!」
田島の大きな声に驚いた三橋は、下を向いたまま硬直して。
ガタタタッと椅子が動くと同時に、田島は三橋の横に着き、屈みこんだ。
椅子に座って項垂れる三橋。
その横で床にしゃがみ、僅かな距離に詰め寄る田島。
完全に下から覗き込まれる体制になった三橋は、視線をキョロキョロ定まらない。
「一緒に泣こうぜ」
「ぅえっ…」
「三橋の悲しい分、俺が泣いてやるよ」
「ぇえ…」
「だから三橋は俺の分泣いて」
唐突に言われた全く意味の判らない言葉に、戸惑うばかり。
と、視線を泳がせていたらバチリ、田島と目が合って。
「ん?泣かないの??」
「ぅ…あ…泣かない、よ」
「そっか。じゃ、俺は悲しくないんだな」
「??」
「俺は三橋が泣いてるから悲しかった。三橋は俺が悲しんでるから、泣いていた。でも、俺たちはどっちも泣いてないだろ?だから、今はどっちも悲しくなくて、泣いてなくて。つまり、二人とも元気ってことだよ!」
田島は笑顔で説明をしたが、三橋の頭上には?マークが無数に散りばめられていた。
「判んなくていいよ」
「ご、ごめん ね 」
「謝んなくてもいいの」
ニッコリ田島は歯を見せて笑った。三橋もつられて、ハニカミ笑顔。
気付けば、朝の涙なんて欠片もなくて。
田島はゆっくりと立ち上がった。
絡める視線をそのままに、ゆっくり、ゆっくり。
三橋は惹かれるように視線を上げて、完全に立ち上がった田島への視線は、上を向いていた。
「今日始めて三橋の顔見たぞ」
「ぅ、うへっ…」
「そうそう!笑ってた方がいいよ。ゲンミツにさ」
後で阿部に会ったら笑った顔を見せたようぜ!アイツ絶対に三橋は落ち込んでるって思ってるからビックリするって!
肩に腕を回して今日の作戦。それに声を出して笑いあって。
ふと。
三橋の顔に照りつける太陽の光がキラキラ眩しくて外を見た。
何処までも続く青い空を、二人は寄り添いながら眺めていた。
授業開始のチャイムがなって、また先生が入って挨拶して。
黒板に字を書く音が、また眠気を誘う。
大きな欠伸を一つ。
チラリ三橋を覗き見るとパチリ不思議と目が合って。
もう三橋の顔に、悲しいは無かった。
END
大好きな人の涙は見れたモノじゃないですよね(苦笑)